スケバンお婆ちゃんが激怒、桜消滅の危機
桃さんと修さん、どこでどういう経緯で知り合ったのか、何もわかりませんが、まあ若い男女はそばにいれば引き合うものですからね。スケバンでも暴走族方面に近づかなかった桃さん、さすがです。
桜「なかなか良かったね、あのアーティスト。」
翼「うん、アンプラグドであそこまで盛り上げられるのってなかなかのテク。」
紬「世に流通してる“風に吹かれて”の歌詞とは違う自分だけの世界観。詩人だね、あの人。」
桜「ちょっと待って!あの人、ひょっとしたらお爺ちゃんかも知れない。」
翼「え?マジ?」
桜「爺ちゃん、ギターをいっぱい持っていて、弾くと上手なの。」
紬「これは桜の存在がかかったBack to the Future かも知れない。やばい、しくじると桜が消える。」
3人がそんな会話をしながらホールを出ると、路上で桃とシンガーが険しい顔で口論していた。
桃「そんなんで夢を諦めるのかよ!」
シンガー「そう言うなよ。一浪して入った大学も今年が最後だ。就職するしかないだろ。」
桃「就職したらどうなるんだよ?」
シンガー「髪の毛を切ってスーツ着て、中央線か京王線に乗って毎日通勤だよ。地獄だけど仕方がない。」
桃「そんな修、見たくないよ。」
修「だってプロになるのはハードルが高い。俺、夢のために人生を賭けるのは怖いんだよ。」
桃「オーディション受けてたじゃないか。反応も良くて事務所にも呼ばれたんだろ?」
修「ああ、エレキも弾いて、フォークロックバンドに進化するというストーリーに乗るなら考えようって言われた。」
桃「チャンスじゃん。やれば良いじゃん。」
修「ちょっと待てよ。俺がエレキ?ありえねー!」
桃「何でだよ?同じギターだろ。電気が通じてるだけだろ。」
修「いや、同じギターと言っても同じじゃないんだな、これが。」
桃「くそっ!短髪にスーツの修なんてぜってー認めねーからな!」
桃は走り去った。修はギターケースを地面に置いてそれに腰掛け、空を仰いだ。
桜「さっきのステージ、とっても良かったですよ。」
翼「CDとか販売してないんですか?あれば買います。」
修「え?CD?何それ?」
翼「あ、すみません。ちょっと混乱しました。」
紬「あの訳詞、世界観が素敵でした。さすがアーティストですね。」
修「アーティストって大げさな。俺はただのシンガーだよ。まあいちおう芸術系の大学に通ってるけどね。東京造形大学...知ってる?」
桜「知ってます。私のお爺...いえ、有名な美大ですよね。」
修「有名かどうかわからないけど、そこでデザインやってる。」
桜「グラフィックデザインじゃなくてテクスタイルデザイン?」
修「え?何で知ってるの?そうだけど。」
桜「よその大学にない学科だからそうなのかなと思って。」
紬「おお、私の名前と親和性が高い。伝統工芸から最新ファッションまでこなす纏いの技術。」
桜「食えなくなりそうな進路の美大の中で稼ぐチャンスが一番高そう。」
翼「手始めに路上で弾き語りしながら手作りのスカーフやバンダナを販売してみれば?男子にはまだ首に何か巻くって習慣がないからビジネスチャンスが広がるかも。単色じゃなくて幾何学模様とか格子柄とかアラベスクとか。」
紬「急に饒舌になるデザイン好き女。」
修「それ、なんだか夢があるな。男が首に巻くっていうと仮面ライダーしか思いつかないけど、ディランとかは首にスカーフ巻いていて真似したくなる。うん、作ってみるよ。」
桜「路上ライブ兼スカーフとバンダナ売りは新宿でやると良いよ。あそこ、路上ライブしてる人が多いから。」
翼「うちらも物販の手伝いするね。」
修「え?うちら?物販?」
翼「あははは...売り子やります、私たち。」
桜「良し、とりあえず短髪スーツ修さんは回避した。」
紬「ディランって確かにスカーフ巻いてるよね。てか西欧男子は巻きがちなんだけど、日本ではあまり真似る人がいなかった。」
翼「うむ、大学の卒論テーマになりそうだ。」
桜「うちらも制服だと売りにくいから、この時代の服を着よう。まず銀座へ行ってコインを換金して、それからホテルを確保だ。」
紬「昭和ギャルに変身だ!」
JKトリオは勝手知ったる泰星スタンプ・コインへ行き、ウルトラマン回のときから6歳歳を取った店主と会った。
店主「いらっしゃい....えーと...前にもいらっしゃいましたか?2度目?」
桜「いえ、それたぶん従姉妹です。うちの一族、都内にたくさんいるので。」
とりあえずエキュの一部を換金して新たに20万円を獲得した3人はそのままタクシーで原宿に出て、南青山などその界隈の店で当世風のファッションアイテムを買い集めた。それから新宿に向かい、ピカピカの京王プラザホテルに宿を取った。開業してまだ2年だ。3人ベッドの部屋で15000円。たぶん当時は高かったのだろうが、JK旅団には余裕だ。
桜「スカーフを売るマネキンだからデコルテが開いていることが必須条件ね。」
翼「それ以外はこの時代のファッションを知らないのでスタッフの言いなりで買っちゃった。まあ間違いはないでしょう。」
紬「すっぴんはあり得ないってコスメまで買わされたよ。」
翼「意外と違和感がないわね。モデルが可愛いと。」
桜「合計7万円。まあ良いわ、私の消滅がかかってる。」
紬「この仕事が軌道に乗ったら、桃さんも修さんを見直すかな。」
桜「そうじゃなくちゃ困る。私以前にパパが消える。」
翼「Back to the Future より1段階根が深いのね。」
翌日、3人は新宿で修のストリートライブ兼デザインスカーフの販売会の手伝いをした。
やはりJK3人が売り子兼マネキンをした効果は高く、品物はあっという間に売り切れた。
修「ありがとう、みんな。俺、やっていける自信が付いた。さっきのお客さん、名刺をくれて、そのデザインが気に入ったので、サンプルを持ってきてくれって言われた。店に置いてもらえるかも知れない。」
桜「良かったわね、修さん。さっそく桃さんに知らせないよ。」
翼「そうだよ。うれしいニュースを真っ先に知らせてもらえるのが女はうれしいの。特別な存在だって実感できるから。」
修「わかった。売り上げで何かプレゼントを買って行ってくるよ。」
桜「がんばってね。頑張って長い付き合いにして....その....ゴールインを目指してね。」
修「おいおい、気が早いな。でも、桃を大切に守るよ。」
3人は修と別れてホテルをチェックアウトした。
紬「同じ日本だからお土産が思いつかない。」
桜「この服で良いじゃん。新品のレトロ服。」
翼「なるほど、新品の古着、それは論理的に不可能なレアものだ。」
紬「私は自分のお婆ちゃんに会いたくないな。DNAに何が伝えられたのか、知るのが怖い。」
桜「だろ?知らないほうが良いことってたくさんあるんだよ。」
翼「あ、来そう。どうしよ、新宿の路上で...」
紬「ともかく路地へGoだ!3人いっしょだと目立つから散開して転移!」
翼「アストラール...」
何とか危機を回避できて良かった。ここまでこぎつければ入り婿まで一直線でしょう。




