日本は戦争に勝った、やったー、と思ったんだけど
桜「ということで海軍と陸軍のトンデモ兵器を紹介してもらったんだけど。」
翼「さすがに口あんぐりだわ。」
紬「うちらが過剰に戯画化しちゃったからなんだけど、量産型架空戦記の作家さんにはそういうとこがあるよね。」
桜「未来の日本から応援を得るとか。」
翼「未来の日本ってうちらの日本でしょ。簡単に応援すると思ってるのかしら?」
桜「それな。価値観が違う大日本帝国に未来技術で手を貸したら世界が変な感じに歪むもの。」
紬「それを変な感じだと思わないのが国士様の架空戦記作家なんだよ。」
桜「あれだけのトンデモ兵器を並べていたんだからもう日本は勝ってるんじゃない?」
翼「勝ってるね。みんな大喜びで提灯行列だよ。」
紬「リアルな提灯行列を見たことがない。現代は明るすぎて提灯が映えない。」
桜「行ってみようか。」
翼「コスチューム、どうする?」
紬「もう戦争は終わったんだから日の丸愛国コスはいらないんじゃ。」
桜「そうだね。ふつうの服装で行こう。」
翼「なんかパッとしないね。」
紬「ぜんぜん盛り上がってない。」
桜「あ、お金持ってくるの忘れた。」
翼「換金ショップを探そう。フランスのエキュとか怪しすぎるから日本の古銭がいいよ。一分銀を10枚。」
紬「一分銀ってたしか現代日本換算だと1枚3万円くらいだった。」
桜「1940年代半ばがわからない。」
翼「ここ銀座っぽいからきっとあるよ、換金ショップ。通行人に訊いてみよう。……あのう、すみません。このあたりに古銭屋とかコインショップはありませんか?」
通行人「古銭屋はその路地を入ったところにあるよ。子犬がナンタラはわからん。」
翼「ありがとうございます。」
古銭屋「いらっしゃい。おや、ずいぶん変わったお洋服ですね。外国帰りですか?うちは外国通貨は扱っていないんですが。」
桜「いえ、江戸時代の一分銀です。10枚あります。」
古銭屋「どれどれ...これはなかなか状態がいいですね。1枚100円で引き取りますよ。」
翼「100円ですか。ちょっとお待ちを……うわ...いえ、、はい、それでけっこうです。お願いします。」
紬「(あんた何びっくりしてたの?)」
翼「(戦後のハイパーインフレ。)」
古銭屋「では100円札10枚、たしかに。」
桜「ありがとうございます。」
紬「ハイパーインフレって物価上昇がえげつないやつ?」
翼「そう。毎月上がる。この1000円が2年後には価値が9割減。」
桜「まあうちらはそんなに長居しないから関係ないよ。それよりお金ができたから新聞を買って現状をチェックしよう。」
翼「いちおう戦勝祝賀のパレードはあったみたいね。でも、電飾で明るかったのはその日だけで、翌日から停電だらけの暗い夜が続いた。」
紬「え?勝ったのにエネルギー不足なの?」
翼「勝ってもエネルギーが流れ込んでくるわけじゃないからね。流れ込んできたのは大量の復員兵。そのまま失業者が増えて治安が悪化。夜は暗くて大量の失業者。犯罪大国ニッポンの爆誕です。」
桜「かなりヤバい時代になってるみたい。」
翼「社会欄は悲惨な事件のニュースばかりだよ。」
紬「うへえ....」
復員兵1「おい、ねえちゃんよお、ずいぶん見せつけてくれるじゃねえか、きれいな脚をよ。」
復員兵2「もっとめくってもいいか?」
桜「あなたたち、どなたです?」
復員兵1「日本に勝利をもたらした兵隊様よ。」
復員兵2「復員したら雀の涙でお払い箱になったがな。」
復員兵1「そういやおまえら、古銭屋から出てきたな。」
復員兵2「兵隊様に寄付しろや。日本の勝利は俺たちのおかげなんだからよ。」
復員兵1「寄付したあとで慰安しろ。すっかりご無沙汰で腐りそうだ。」
翼「心が腐ってますね。」
桜「しばらく痺れて寝てなさい。」
紬「戦争に勝って国が不幸になってるじゃないの。」
桜「戦争に勝者はいないって昔からよく言われてるてるからね。」
翼「でも踏みつけられる人がいるなら踏みつけて肥える人もいるのでは?」
紬「あ、左翼的発言でネトウヨが動員されて押し寄せるやつや。」
翼「かまわんばい。来るなら来るっちゃ。」
桜「あのう、方言は混ぜて使わないでね。それも怒られるやつだから。」
紬「儲かってるの誰かな?」
桜「ふつうに考えれば財閥かな。」
翼「戦争が終わればもう兵器は売れないからあまり儲からないような気が...」
桜「そこはJKの知識では追いつかない経済活動のいろいろがあるんだよ、きっと。」
翼「追いつかないから追っかけるのやめよう。」
紬「軍人さんは暇になったよね。」
桜「暇になったんじゃない。」
紬「でも勝っちゃったからもう戦えないよね。」
桜「大和魂もチャージできない。」
紬「あの八幡宮バリアも出せなさそう。」
翼「行ってみようか。」
桜「うわ、昼間からお酒臭い。」
翼「陸軍士官が昼酒なの?」
紬「精神弛み病。」
士官1「なんら、おまーら?」
士官2「派手なかっこうしやがって。」
士官3「だがそれがええ。シャクばせんか。」
桜「飲んでも飲まれるな、です。」
翼「だせーです。」
紬「モルボルみたいな臭い息を吐かないで。」
士官1「なんらと、おまーら!」
士官2「帝国陸軍をなめとるか!」
士官3「そこになおらんか。躾けちゃる。」
桜&翼&紬「捕まえらるものなら捕まえてみな、千鳥足野郎!」
3人は脱兎の如く逃げだし、近くの警察素を目指した。千鳥足士官はふらつきながら追ってくる。
翼「おまわりさん、酔っ払った暴漢に絡まれました。」
桜「助けてください。」
3人は警察署内へ避難した。入り口で陸軍士官と警察官が揉めている。士官のひとりは急に走ったためか植え込みに嘔吐している。
警察官「何ですか、あなたがたは。軽犯罪法で逮捕しますよ。」
士官1「なんらと!警官の分際で帝国軍人に逆らうか!」
警察官「犯罪は犯罪ですから。」
士官2「軍人に犯罪はなかと。反抗するなら制圧すっと。」
警察対陸軍。どちらもメンツを掛けて引くわけにはいかない。3人はこっそり裏口から脱出した。
桜「何、あいつら?」
翼「戦いがないなら何かためになる仕事を与えればいいのに。」
紬「戦いしか知らない。言葉だけ聞くとかっこいいみたいだけど、内容はひどい。」
桜「あっちでデモやってるよ。珍しい。戦争が終わって民主的になったんだね。」
翼「どうだろ。すごい数の警察官が警棒振り回して殴ってるし。」
紬「怒号が飛び交う銀座。」
桜「俺たちにも餅食わせろって叫んでる。」
翼「俺たちにも?」
紬「誰かに餅を食わせたのかな?」
桜「おとなしそうな人に訊いてみよう。……あのお、何のデモなんですか?」
通行人「中国大陸で爆撃機から大量の紅白の餅をばら撒いたそうで、みんな怒ってるの。」
桜「はあ、餅をばら撒いた...」
通行人「大東亜共栄圏を安定させるため人心掌握が必要なんだって。中国、貧しいから、餅を食わせれば懐くんじゃないかって。」
翼「なるほど、餌付けですか。古典的だが効果的かも。」
通行人「でも日本も貧しくて誰も餅なんか食べられない。なのでその報道を聴いた人たちが怒っちゃって。」
紬「食べ物の恨みは恐ろしいというけど、現実に目にするとホントに恐ろしい。」
桜「何かいろいろひどい。」
翼「中国人って10億人もいるんだよ。日本人がいくら頑張って餅をついても間に合わないよ。」
紬「紅白の餅という発想がねえ。肉まんとあんまんにすればいいのに。」
桜「紬、おまえもそうとうにひどいぞ。」
翼「もう帰ろうよ。これ以上の検証、耐えられない。」
紬「ということなので、架空戦記の作家様、どうか戦後もトンデモ設定で何とか幸せにしてやってくださいね。」
古代ローマ帝国、なぜ滅んだかというと、ゲルマン人が押し寄せて滅んだわけではなく、統治コストに耐えかねて瓦解したのです。ようするに、こんなに領土を広げてどうすんだ、めんどくせえ、になった。大東亜共栄圏、ローマ帝国の比ではなかったでしょう。




