悪役令嬢ドーラの悲惨な転生前、JKトリオもかける言葉が見つからない
桜「ふう、ようやく部屋がもらえた。素に戻れる。」
翼「この世界のセーブハウスだね。」
紬「天蓋付きの無駄に豪華な寝台。だけどトイレは付いてない。」
桜「そういうのはゲームでもラノベでもスルーするから。」
紬「昔読んだ青年誌だか少年誌だか忘れたけど、あれ何ていうのかな、マンが作品じゃなくて、編集部とライターがアホな企画で読者のメールを紹介するコーナーがあって、そのときのテーマが“アイドル”だったのね。そしたら、“アイドルはトイレに行かない”という文字とともにアイドルが野ションしている絵が紹介されていた。」
翼「なるほど、“トイレに行かない=排泄しない“ではなくて”トイレではしない“と読み替えたのか。うん、賢治の”注文の多い料理店“と似て秀逸だ。」
桜「あのさ、とりあえずうちらの解決法だけど、持ってきてるんだよね、ジャーン!」
翼「これで尊厳は保たれる。」
紬「きっとみんなおまるだよ。19世紀のパリでもおまるだったもん。」
桜「貴族は下女がおまるを処理、平民は自分で窓から中身をポイ。」
翼「さて、悪役令嬢とヒロインのふたりに接触したけど、まだ表面的な話しか聞いてないね。」
紬「ヒロインの背景はまだ謎だけど、量産型ラノベの悪役令嬢ものでは、令嬢が現代からの転生者だから、その話を聞きに行こう。」
桜「だね。さっそく行動開始だ。お土産も持っていって懐柔に役立てる。」
ドーラ「はい、どなたかしら?」
桜「留学生の3人です。」
ドーラ「お入りになって。」
ドーラ「こんな格好でごめんなさいね。でも私室の中でまでドレス姿は苦しくて。」
翼「あれは動く牢獄だ。」
桜「体積が恐ろしく膨れ上がるので身動きが取れない。」
紬「狭い入り口が通り抜けられない。どれだけの悲劇が積み重ねられてきたことか。」
ドーラ「そうなの、通れないの。そして裾でさまざまなものを引っかける。」
翼「歩くロードスウィーパー。」
桜「自己紹介したとき、ミナトークに反応したよね?」
ドーラ「聞いたことがあるような気がして。」
翼「ひょっとして港区を知ってる?」
ドーラ「あまり自分とは接点のないキラキラした場所としては...」
桜「あなた、現代日本からの転生者だよね。」
ドーラ「はい、そうです。」
翼「転生ということは、元世界で死んでここに飛ばされた。」
ドーラ「そうです。その通りです。あなたたちも?」
桜「いや、うちらは転移してきただけ。また東京に戻れる。」
ドーラ「そうですか。でもそれは羨ましくありません。元の東京...地獄でしたから。」
紬「そうなの?なぜ?」
ドーラ「貧困です。東京は貧困地獄の極北です。生きてるだけでお金をむしり取られる。」
翼「.....」
ドーラ「みなさんはまだお若いからわからないでしょうね。東京に出て部屋を借りると毎月7万~8万円の家賃を取られるんですよ。」
桜「ま、まあそうかもしれませんね。うちら実家暮らしなので。」
ドーラ「でも大学進学で東京に出るでしょ。そのときその現実に直面します。」
翼「実家が東京なのでそのまま住み続けます。」
ドーラ「ちっ、東京生まれかよ。最初からスタートが違うじゃねえか。」
翼「あの~....」
ドーラ「あ、ごめんね。つい羨ましくて。私、地方の高校で成績がよかったの。でも学校でトップを争うといっても東大はおろか早慶も無理で、いわゆるマーチに入学したの。それでも誇らしかった。これでスタート地点に立てたと思った。でも周りの子たちは、早慶落ちた、ギリだったとか、付属上がりでお勉強モチベーションが小学校で止まってるとか、そんな人ばっかり。私の誇りはすぐ地に落ちた。」
桜「それは....未経験だからなんとも言えないけれど、誇りの重点をどこか別のところに探すとかしないと辛そうね。」
ドーラ「入学時の費用は親が何とか工面してくれたけど、仕送りは無理だってことで、さっそくバイト地獄。誇りの重点なんか探せなかった。」
翼「奨学金は?」
ドーラ「最大限借りたよ。それが卒業後の地獄の引き鉄にもなったんだ。総額500万円の利子付き借金返済地獄。」
桜「...なんか、かける言葉が見つからない。」
ドーラ「今だから言うけど、2年生のときににっちもさっちもいかなくなってついに風俗も始めた。風俗の待機所には私みたいな大学生がたくさんいた。そのとき、キラキラした東京の裏側に地獄が広がってるんだなって実感したよ。あ、ごめんね。女子高生を相手に生々すぎる現実を話しちゃって。風俗を始めたらお金はすぐ貯まって、3年生のときに足を洗っても生活が成り立つくらいに貯金もできた。それで胸をなで下ろしながら卒業して就職したの。」
翼「私もいまのお話の中間点で胸をなで下ろした。」
ドーラ「腐ってもマーチだし、ガクチカは風俗以外のバイトを総動員して勤労意欲をアピールした結果、そこそこ知られてる企業に入ることができた。」
桜「よかった、本当によかった。」
ドーラ「よくない。私も最初はホッとした。世間は非正規採用がなんだかんだと騒がれているけど、私はマーチを出てそこそこの企業に正規採用だ。勝ち組だと思った。でも地獄の第2ステージがそこで始まったんだ。家賃8万円、光熱費1万円、スマホその他の通信費1万円、これで10万円が飛ぶ。そこに奨学金返済が月に3万円。毎月13万円が飛んで行く。給料の手取りは18万円。5万円しか残らない。外食はおろか、食べるのにも苦労する。もう白米なんてたまに買うコンビニのおにぎり以外では食べられない。いろいろ試したよ。マルタイ棒ラーメンは2食で150円、さらに探して業務スーパーでスープなしなら1kgで450円。しばらくこれに落ち着いた。それからさらに探して、中華系食料品店で中華乾麺も1kgで600円程度。少し贅沢するならこっち。そして西洋っぽい味が欲しいときは業務用スーパーでトルコ製パスタ。これは1kgあたり300円未満。」
紬「く、くわしい...」
ドーラ「魚肉ソーセージと合い挽き挽肉はたまの贅沢として麺料理に使う。基本はもやし一択。粉末スープととろみ用の片栗粉がないと死ぬ。そんなこんなで生きてきた。昼休みは給食がないので、誰にも見られないように会社を出て少し遠いコンビニでいちばん安いおにぎりを買い、公園の水飲み場で給水しながら食べた。でも、そんな生活をしていれば栄養失調になりパフォーマンスが落ちる。仕事も失敗しがちになりメンタルがだんだんやられてきて、自殺じゃないけど、橋の欄干にもたれて夜空を見上げていたらバランスを崩して落ちて死んだ。」
翼「転生って狭間の空間で女神様が何かしてくれるんでしょ?チートとか。」
ドーラ「十条つぐみは死んで狭間の空間に行ったよ。どんな女神だったか、そもそも人間の形をしていたかどうかも覚えていない。でも転生後の望みを聞かれたので即座に答えた。貧乏を知らない富裕層に転生したいと。そしてつぐみはドーラになった。」
紬「よかったね、望みが叶って。」
ドーラ「こちらの世界のドーラは12歳で死んだのでそこに転生した。元ドーラは死んで当たり前の女の子だった。だって死因がフォアグラとキャビアの食い過ぎ、しかもガキのくせにシャンパンをがぶ飲み。」
桜「なんだ、そのぶっ壊れキャラは!」
ドーラ「両親も手に余していたらしい。だけどつぐみが入ったドーラは見違えるように良い子になった。なにせマーチ出身の20代の大人だ。何をすれば気に入られるか心得ている。」
桜「なるほど、それで人生は順風満帆になったんだ。よかった。」
ドーラ「よくない。人生を順風満帆にするためには王立カリゴス学園でトップになり皇太子と結婚しなければならない。そのためには魔力測定で圧倒的な結果を残す必要がある。」
翼「人生設計を早い段階で自主的に始めたのね。さすが転生者だわ。」
ドーラ(元つぐみ)の悲惨な前世....多少の誇張はありますが、現実にありそうで怖い。富裕層のJKトリオも軽口を控えるしかありません。




