悪役令嬢とヒロインと初接触しました
ラノベの悪役令嬢もの、設定文法がわからないとなんで「悪役」なのかわからなくなりますね。なので、「悪役令嬢をやめて攻略対象をみんな豚にしました」というようなタイトルだと一般人にはほぼ通じません。難しい。海外進出はもっと難しい。
ドーラ「あなたたち...見ない顔ね。」
紬「はい、外国からの留学生です。」
ドーラ「あら、珍しいわね。お国はどちら?」
紬「東の彼方の国ですの。ミナトークと申します。」
ドーラ「聞いたことがあるようなないような....。まあいいわ。私はドーラ、ドーラ・デイモンよ。よろしくね。」
紬「よろしくお願いします。私はクロエ・トロワーズです。」
翼「同じくミナトークから来たレア・ツヴィースですわ。」
桜「私も同じで、えーと、ローザ・プリメーラです。」
ドーラ「学年は?」
紬「高等部2年です。」
ドーラ「あら、同じだわ。仲良くしてくださいね。」
桜「はい、こちらこそ。」
ドーラ「留学生ということはクラス割りの魔力検定は免除なのね。」
翼「はい、何も伺っておりません。」
ドーラ「そう、それはけっこうなことだわ。あれは本当に辛いもの。」
桜「そうなんですか?私たちの国には魔力という概念がありませんので想像もつきません。」
ドーラ「魔力の計測は生徒全員の目の前で行われ、その値が低いと他の能力のすべてが否定されるの。その値と順位は校内の正面玄関の壁に貼り出され、半年間晒されます。SからFまで7クラスの編成も魔力の高さで決められるので、所属クラスで優劣がはっきり決められてしまう。学校内の処遇もクラスによって異なります。」
翼「お話を聞く限りかなり過酷なシステムですね。」
紬「留学生はプレイヤーじゃなくて見物人ポジションで本当によかった。計測したことがないけれど、たぶん魔力なんてゼロですよ。異世界にでも転移しない限り。」
桜「ドーラさんはどうでしたの?……その...魔力。」
ドーラ「ほーっほっほっほ、私は幼いころから努力を怠りませんでしたからね、何の苦労もしませんでしたわ。」
翼「私たちはFクラスに配属されるのでしょうか?」
ドーラ「先生が決めることなのでわからないわ。あ、そうそう。私たち同学年なので敬語はいらないわよ。ドーラと呼んで頂戴。」
桜「わかったわ。では私たち、失礼してクラスのことを先生に聞きに行きます。ごきげんよう。」
ドーラ「ごきげんよう。」
桜「職員室はあっちね。」
翼「こんなに広いんだから構内図とかあっちこっちに掲示すればいいのに。」
紬「そういう配慮ってあまりラノベにないよね、地味な違和感だけど。」
桜「あら、あの子....」
翼「あのオーラはヒロインね。」
紬「……と、読者がわかる前提で話してるけど、ラノベの内向き会話だからね、これ。」
桜「ここで“説明しよう!”と窓が開いて説明おじさんが出てこないと一般人は置いて行かれる。」
翼「この世界に転移するまでうちらもわからなかった。」
紬「説明しよう……って、おじさんじゃねーわ!」
桜「いいから続けろよ、説明おねえさん。」
紬「説明しよう。“ヒロイン”とは、乙女ゲームでプレイヤーが憑依するキャラである。設定はいろいろあるけれど、基本的に平民や貧乏貴族で、身分違いな場所に入り込んでいじめられ、でもけなげで裏表ない態度が支配層の男子たち――これを攻略対象と呼ぶ――に気に入られ、意図せず逆ハーレムを作り、それまで君臨していた学園のボス令嬢――これこそが悪役令嬢――の婚約者を奪ってエンディングで勝利して“ざまあ”を完遂する人物である。そして、ことを複雑にするのは、このテンプレ設定が乙女ゲーのものであり、ラノベにおいてこれが逆転――いや単純な逆転ではないのだが――して、読者の視点は“悪役令嬢”にシフトすることである。この場合、“悪役令嬢”は現代人の転生者であり、たいていの場合、その乙女ゲーをプレイしていて内容を知っていることになっている。トラックに轢かれたりブラック企業で過労死した末にゲーム世界に転生し、こともあろうに“悪役令嬢”の役を引き受けてしまう。この量産型設定で雨後の竹の子のようにラノベが紡がれ――タケノコのように紡がれるという比喩表現は映像的に破綻しているが...ここは“ええい!”で押し切る――今日に至る。」
桜「はいご苦労さん。だからあの子、今回のラノベ的主人公の“悪役令嬢”の敵なんだけど、その下地になっている乙女ゲーの主人公という面倒くさい役なのだ。」
翼「この設定、最初に考えた作家さんは偉いけど、そのあとのエピゴーネンがねえ。」
紬「そのなんだか頭良さそうな用語、説明しろよ、検索おばさん。」
翼「誰がオバさんじゃ!ドイツ語でEpigonen、元々は古典ギリシャ語で“あとに生まれた者”、つまり追随者、すなわちパクリ――“すなわち”で雑につなげたけどパクりは行為、追随者はパクリした人々なので、正しくは“パクラー”とか”パクリスト”いうべきかも。」
桜「このあたりでもう面倒くささのピークに達したので、ストーリーに戻って“ヒロイン”に接触しよう。……ねえあなた。職員室はどこかご存じかしら?」
紬「我ら留学生であるからにして言葉も地理も不明であるがゆえお尋ね申す。」
ヒロイン「職員室ならすぐそこですよ。私、今そこから出てきたところなので。初めまして、私、アンジュ・デロイーヌと申します。」
桜「ローザ・プリメーラです。よしなに。」
翼「レア・ツヴィースです。よろしくね。」
紬「んーと....作者が忘れたみたいなんですけど...クで始まるよ...クレア?」
桜「あ、こいつはクロエだから...クロちゃんて呼んであげて。」
紬「それ絶対やだ。」
教師「ローザ・プリメーラさん、レア・ツヴィースさん、クロエ・トロワーズさん、留学生のあなたたち3名はS組に配属になります。本来は魔力測定でクラス配属が決まりますが、短期留学生でゲストのみなさんは成績評価の範疇外なので、最高位のS組で楽しくのびのび過ごしてください。これが寄宿舎の部屋の鍵です。王立カリゴス学園へようこそ。」
とはいえ、あまりにも頭が悪そうな設定だとこの物語自体がどうにもならなくなるので、悪役令嬢とヒロインの背景を少し作り込みました。それは次回で。




