芥川龍之介の「羅生門」に突入して正義を示してきた
桜「なんだか申し訳なかったかな。主人公が帰郷して社会の理不尽さに触れたという話なのに。」
翼「しょうがないよ、うちらにはちっとも刺さらなかったんだし。」
紬「そうそう、お気持ち問題の宝庫なんだから脱ナンタラしてやればいいんだよ。」
桜「で、次の中学国語ランキングは何?」
翼「次はね、芥川龍之介の“羅生門”だよ。」
紬「おお、黒澤映画にもなったやつ。」
桜「これは荒事もあるし、介入してもいい案件かな。」
翼「武器を持っていこう。テイザー。」
紬「コスチュームはどうする?平安時代だよ。」
桜「さすがに平安衣装は勘弁だな。裾を踏んで転ぶ。」
翼「テイザーも持ち込むし、未来から来た監視チームみたいなのは?」
紬「いいね、アニメっぽい。思い切り有明モードを全開にして...」
翼「季節を調べていかないと浮く、っていうか私たちが困る。紬、速読スキルでチェックして。」
紬「オッケー、青空文庫でチェック…………あった、“夕冷えのする京都は、もう火桶が欲しいほどの寒さである。” もうって言ってるから冬が近いということで晩秋だね。」
翼「晩秋ならブーツは必須。アウターとミニスカ、そして未来感。」
桜「では、いざ行かん、晩秋の京都へ。」
桜「やって来ました、羅生門。」
翼「荒れ果てているわね。」
紬「だってこう書いてあるもの。」
この二三年、京都には、地震とか辻風とか火事とか饑饉とか云う災がつづいて起った。そこで洛中のさびれ方は一通りではない。旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹がついたり、金銀の箔がついたりした木を、路ばたにつみ重ねて、薪の料に売っていたと云う事である。洛中がその始末であるから、羅生門の修理などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。するとその荒れ果てたのをよい事にして、狐狸が棲む。盗人が棲む。とうとうしまいには、引取り手のない死人を、この門へ持って来て、棄てて行くと云う習慣さえ出来た。
桜「うわ最悪。行政が機能していない。」
翼「冒頭の登場人物は下人がひとりだけ。」
紬「仕事先をクビになって途方に暮れて雨宿りをしている。」
翼「そして、“門の上の楼へ上る、幅の広い、これも丹を塗った梯子”を登るんだ。」
紬「そう、そこで女の死体から髪の毛を抜いている老婆を見つける。」
桜「最底辺の地獄絵図だ。」
翼「これは中学生には辛いわ。」
桜「でもほぼ腐乱死体だけで流血場面はないからギリセーフだったんじゃない、教科書採用。」
翼「このあと最底辺のふたりの問答があるんだけど。」
紬「餓死するか、ちょっとだけ悪いことをして生き延びるか。」
桜「そこなんだけどさ、なんか腑に落ちない。老婆、別に悪くないじゃん。」
翼「まあたしかに。死体はもう腐ってゴミになるんだから有効活用は環境問題への対処としても正しい。ゴミを減らす。リサイクル、いやリユースだね。」
紬「さすが翼、公民の成績がいいよね。」
桜「でも老婆を悪と決めつけた下人は、だったら俺もと擁護できない行動に出る。」
翼「悪くない老婆から着物を奪って逃げる。」
紬「どうする?」
桜「うちらは鋼鉄のタイムパトロールガールズだからもちろん阻止だよ。阻止してお説教。」
翼「だね、もっといい出口があると教えてやろう。」
紬「あ、下人が太刀を抜いて老婆に迫った。行こうか?」
桜「行こう……待たれよ、そこな御仁!」
下人「う...何奴だ?」
桜「我々は鋼鉄のタイムパトロールガールズだ。」
下人「何...だと?ワレワレワ コオテツノ タエムハトロオル カアルス?」
翼「ちょっと桜、平安人にその名乗りはないわ。」
桜「えー、コホン、ともかくその老婆をいじめるのはやめろ。とりあえずミルキー食って落ち着け。」
下人「これは....なんと甘くてふくよかな味...」
桜「いいか、おまえがいま詰め寄ろうとしたこの老婆、我々の倫理観に照らし合わせて悪と断じることはできない。おまえを作り出した芥川にはそれが理解できない。」
下人「そう...なのか?」
翼「そうだ。死体は腐ってゴミになる。ゴミが多いのと少ないの、おまえはどっちがいい?」
下人「そりゃあ少ないほうが。」
紬「そうだろ?このお婆さんはゴミの量を減らしている。つまり正しいことをしている。これを未来の世界ではリユースという。」
下人「ヴィユ...」
桜「あー、無理して発音しなくていいぞ。再利用ということだ。ゴミが減って資源が増える。いいことだらけだ。」
翼「原作でのおまえの行動はこうだ。婆が悪をなしているのだから俺が悪をなしても問題はない、なので婆の着物を奪って逃げる。」
下人「う...」
桜「だがさっきも言ったように、このお婆さんは悪くない。悪くないのに着物を奪えばそれは悪だ。違うか?」
下人「そうだ。俺は間違っていた。」
翼「そこで私たちからの提案だ。着物を奪って売るというのなら、おまえもお婆さんと同じように環境負荷を減らす方向で考えろ。私たちはさっき言った。ゴミを減らして資源を増やすことは正義だと。覚えているか?」
下人「はい、覚えています。」
翼「ならばここに転がっている死体の着物を剥いで、鴨川で洗濯して売ればいい。ゴミが減って資源が増える。もちろん婆さんと山分けだぞ。」
老婆「わしもおこぼれに与れるのか?」
桜「もちろんですよ、お婆さん。資源は平等に分配されるべきなのです。」
下人「わかった。俺が悪かった。これからはこの婆さんと一緒にゴミを減らして資源を増やす商売を始めよう。」
桜「よく言った!世代間扶助、その姿は美しい。」
翼「平安の世に新しいライフスタイルの形を確立したな。でかしたぞ。」
紬「褒美にミルキー5箱ととらやの羊羹10本を進呈しよう。末永く励めよ。」
あとがきに書く言葉が思いつきません。荒事もありませんでした。思えば、中学国語の教科書に荒事は出てきそうもありませんね。しかし、実際に中学校の国語の時間で、生徒が手を挙げて、「先生、このおばあさん悪くないと思います」てやったらどうなるんでしょうね。先生が考えてきた授業プランがメチャクチャ。いや、だから面白い。予定調和なんてぶっ壊してやればいいんですよ。




