中学国語の定番、魯迅の”故郷”に行って好き放題した
桜「ヌルゲーだった。」
翼「名前だけ有名な作品だった。」
紬「教科書に載せる価値があったのか?」
桜「作家が有名で作品が超短編。」
翼「賢治、ちっとも力を込めて書いてない。」
紬「童話で小遣い稼ぎ。」
桜「国語教育のエライ人たち、真面目に仕事してないね。」
翼「それな。物語をしっかり読んでこれなら推せるみたいな熱意が感じられない。」
紬「厳しいことを言うけど、カタカナ4つ、オザナリ。」
桜「じゃあ次、また似たような文科省のオザナリが反映した中学国語の世界へGoだ。」
翼「お気持ち探り合いの気持ち悪い世界、魯迅の“故郷”へ。」
紬「あ、いたいた。主人公、実家に帰る。」
桜「この人、一人称の語り手だから名前がないよね。」
翼「たぶん……青空文庫を流し読みしても見つからない。」
紬「ここから母親とお茶を飲みながら、昔の思い出に浸るんだよ。幼馴染みの閏土のこと。」
翼「ここだね。」
この時、私の頭にはふと一幅いっぷくの神異的な書面が思い浮んで来たものである。紺青色の空に一輪の金色の円い月が出てその下は海岸の沙地で、一面に見渡すかぎり清々とした西瓜が植っている。その中にひとり十一二の少年が、項には銀の頸飾をかけて、手に一本の刺又をかまえて一疋ぴきのチャー(西瓜を食いに来るという獣、空想上の獣)を目がけて精一杯で刺そうとしているのだが、チャーは身を翻して彼の胯の下からくぐり抜けて逃げてしまったのであった。
紬「坊っちゃんが自由に自然と戯れている地元の子を少し眩しそうに見ている。」
桜「その感情はわりと共感されるかも。うちらみたいに港区育ちだとあまりその機会はないけどさ。」
翼「アニメとかでもあるじゃん。夏休みに田舎に行くと現地の子がちょっと羨ましくなるパターン。」
桜「ここからだと埒が明かないから私たちも家に入ろう。」
翼「たぶん目立たないよ。中国4000年。」
紬「お邪魔しまーす。ただのJKトリオなので気にしないでくださいね。」
桜「ほらやっぱり。全然気づかないで、お母さん、新しい来客の対応に出ちゃった。」
翼「あれは近くの煙草屋の女だね。名前は楊小母さん。」
紬「昔は煙草屋小町ともてはやされていた看板娘だったらしいよ。」
桜「しきりに家財道具を指差して怒鳴ってる。」
翼「これをタダで寄こせって言ってるのね。おまえら金持ちには不用の品だろうって。」
紬「あげればいいのに、主人公は渋ってる。」
桜「このあたりで国語教師は設問を作るね、あのいやなお気持ち問題。」
翼「この女性の気持ちは次のうちどれでしょう。」
紬「知らねえっつうの。エスパーじゃねえし。」
桜「たぶん正解は、昔抱っこして世話したことがあるんだから家財道具ぐらい渡してくれてもいいはずだ。」
紬「でも真のお気持ちは、あのとき子どもだと思って油断してたら胸に手を突っ込んで乳首を触っただろ。その分だと思って渡しやがれ。」
翼「はっはっは、あり得る~。」
桜「あのおばさん、主人公が簡単に首を縦に振らないからキレちゃったよ。おまえ、妾が3人もいるくせにケチだなだって。」
翼「マジか。それは看過できないな。」
桜「主人公、何も言い返せないからきっとそうなんだよ。サイテー。」
紬「おばさんの味方をしよう。……おーい、妾持ちのモラハラ男、ケチケチすんな。」
桜「そうだそうだ。スケベな欲望だけは別予算の聖域なのかよ。」
翼「女の敵のエロ男!」
思わぬ応援が入ったので、おばさんは笑顔になり、いくつかの家財道具をひっつかんで風のように立ち去った。主人公は唖然としてそれを見送るしかできなかった。
桜「よし、ちょっとスッキリした。」
翼「まだまだ行くよー!」
紬「次は大人になった閏土の登場だよ。」
桜「試験でお気持ち問題が日本中で出題されるところ。」
翼「主人公は昔の思い出が無残に蒸発する感覚に襲われる。」
紬「で、大人の閏土の背後から昔の閏土とうり二つの子どもが出てくる。」
桜「大人になった幼馴染みを見た主人公の気持ちは次のうちどれですか。」
翼「老けて昔の面影がない、時の流れは残酷だ、が正解かな。」
紬「でも真の正解は、こいつ、嫁としかやってないんだろ、哀れなもんだな。」
桜「はっはっは、それ大正解。」
翼「そしてその選択肢が切り抜かれて新聞沙汰になり大炎上。」
桜「真実を潰す嘘社会。」
紬「お気持ち問題ってさ、入試や成績評価で現実の得失に影響を与えるじゃん。裁判で争えないのかな。なぜそれが正解と決定できるのか、法理に照らし合わせて説明せよって。」
桜「最高裁までもつれ込む。裁判官には判定不可能。」
翼「だれかやらないかな。」
桜「閏土は今の生活がとてつもなく苦しいと主人公に訴える。それを聞いた主人公のお気持ちは...」
紬「お涙頂戴でカネをもらおうっていうのか、ふてー野郎だ。」
翼「まあその程度の選択肢ならもう少し穏当な表現で成り立つかもね。」
桜「どうせ丸をもらえるのは、幼馴染みの境遇を知り社会の理不尽さに思いをはせた、あたりだよ。」
紬「こうしてみると、中学国語って波風立てない羊の子を育てる機構かも。」
翼「羊の国ジャパン。」
桜「もうそろそろいいんじゃないか。このあと何のイベントも起こらないし。」
翼「誰の記憶にも残らず終わる中学国語の定番、魯迅の“故郷”。」
紬「とっとと帰って、来週の試験に備えて古文の単語を覚えよう。あれ、超苦手。」
桜「さるべきにや、はや帰りまうさう。」
勝手に人の家に行って好き勝手しまくってるのに、登場人物は全く意に介さない、便利な仕組みです。




