JKトリオ、銀河鉄道に乗って銀河の乙女になる
桜「ボツにした漱石の作品を鴎外の作品世界に持ち込んで有効活用、なんというか...紬らしい身も蓋もない作戦だったなあ。」
紬「身も蓋もないではない、無駄を排した効率的な作戦と言うべきだ。せっかくの第10位、しかも鴎外と並ぶ明治の二大文豪の漱石。そのままボツにするより、鴎外の作品に投入して登場人物を救うことができたのだから一石二鳥。漱石も草葉の陰で笑っている。」
翼「笑ってるかなあ....仲が良かったとは思えないんだけど。」
桜「笑ってはいないな。苦虫を噛みつぶして胃液が逆流してタカジアスターゼを呑んでる。」
桜「中学国語の人気作品、次は何だ?」
翼「8位と7位、同じ作家なので続けていくよ。“銀河鉄道の夜”と“注文の多い料理店”だ。」
紬「う....これまた摩訶不思議世界。」
桜「ふんわりと雰囲気だけ覚えていて、中身がよくわからない。」
翼「それな。ファンタジーのパステル絵画しか頭に浮かばないよ。」
桜「猫は出てきたっけ?」
紬「出てこないよ。チェシャ猫をここに混ぜ込むな。」
桜「どこにでも転移できて介入できるんだけど、このふたつの物語、介入してできることってあったっけ?誰か不幸になった?」
翼「とりあえず物語がふたつ別々にあるんだから分けて考えよう。まずは“銀河鉄道の夜”ね。」
桜「これ、ラノベ読者にファンが多そうだから、雑に取り扱うと炎上するよ。」
紬「うー、面倒くさい。」
桜「このさい、銀河鉄道ガチ勢は無視だ。うちらのノリで銀河鉄道に乗り込んで旅を楽しみ、カムパネルラの死だけを阻止する。雑でOKだ。だってうちらは鋼鉄の楽しい女子旅グループなんだから。」
翼「は?もはや鋼鉄のが入る余地はなさそうなんだけど。」
桜「いいんだよ。こういうときはJKブランドを有効活用だ。天沢退二郎も笑って許してくれるよ。」
翼「誰それ?」
桜「すごいお髭の詩人で宮沢賢治研究者。紬の家の近所にある明治学院大学の仏文科教授でもあった。」
紬「ふーん、覚えておこうっと。」
翼「今回の衣装はどうしよう?」
紬「銀河に映える服がいいな。」
桜「わお、銀河鉄道の銀河ステーションだ。」
翼「JK女子旅、甘美な響き。」
紬「女子旅と言えばおやつ、ねえおやつは?」
桜「あっちで銀河饅頭売ってる。」
翼「やだ、ダサい。」
紬「あ、あっちに銀河シェイクがあるよ。」
桜「いよいよ出発だ。警笛が鳴った。」
翼「鉄道の警笛って初めて聞いたよ。風情があるねえ。」
紬「銀河鉄道っていうくらいだから空を飛ぶのかな?」
桜「空どころか宇宙でしょ。でもSFじゃないから窒息はしないよ。」
翼「うちらの他にあまり乗客はいないような...」
紬「あ、あそこの男の子たち、きっとジョバンニとカムパネルラだ。」
ジョバンニ「あれ、君はカムパネルラじゃないか。ずっと乗ってたっけ?」
カムパネルラ「他の子たちは走ったけど乗り遅れてしまった。ザネリもね。」
ジョバンニ「ザネリ...思い出せそうで思い出せない。」
カムパネルラ「もうすぐ白鳥ステーションだ。うれしいなあ。ぼくは白鳥を見るのが大好きなんだ。」
ジョバンニ「このあたりは天の野原だ。見て、あんなにたくさんのリンドウの花。そして燐光の三角標が飛ぶように流れて行く。」
翼「わー、すごい!銀河がキラキラ流れて飛んで行く!」
桜「来た甲斐があったね。感動の女子旅大成功。」
紬「あ...見とれていて写真や動画を撮るのを忘れるところだった。」
車内放送が次の停車駅を告げた。次の停車駅は白鳥ステーション。停車時間は20分だという。列車は速度を緩めた。車窓を流れる光景も姿がはっきりしてきた。湿原を白鳥が二羽、三羽、飛び去って行く。列車はホームに入って停車した。
カムパネルラ「降りてみよう。」
ジョバンニ「うん、駅の外に出られるかな。」
ふたりはホームに降りて改札口へ向かったが、そこには駅員がいなかった。人っ子ひとりいなかった。
カムパネルラ「駅前広場の近くを探索しよう。大丈夫、停車時間は20分と言っていた。」
ジョバンニ「ここを下ると川があるようだ。」
翼「あの子たち、降りちゃうよ。」
桜「追いかけよう。」
カムパネルラとジョバンニは青い水が流れる川の河原で石を拾っていた。ただの小石なのに手に取ると青い燐光を放つ。
桜「ねえ、あの子たち、光る石を拾ったよ。」
翼「川の水も青く輝いてる。とてもきれい。」
紬「きれいだけど、このまま美しいものに誘い込まれて大丈夫なのかな?」
桜「あ、あのふたりが動いた。川下に向かって歩き出した。」
翼「見て、つるつるした陶器の道しるべが掛かってる。プリオシン海岸だって。」
紬「河口が海に流れ込む場所なのね。」
桜「ベンチがあるので観光ビーチなのかな。」
宮沢賢治の深い世界にはできるだけ触らないように、軽快に、そしてJKらしく旅を楽しむ3人なのです。




