いよいよ熊を屠る、サルに戻って、戦いの前に膀胱は空にしておけ
翌朝、ライはゲルダを伴って武器屋へ行き、クロスボウのボルトを買い足した。そして自らに新装備の投擲用のショートスピアを購入した。次に道具屋へ赴き、大量のロープと漁網を買い入れた。
ゲルタ「そんなにたくさんのロープ、何に使うの?」
ライ「ふっふっふ、まあ見てろって。次に市場で乾燥肉などの保存食を買うぞ。熊退治は持久戦だ。」
食品店員「へい、らっしゃい。」
ライ「乾燥肉と木の実、ライ麦パン、それから白ワインの水割りを3リットルだ。」
食品店員「へい、全部で3グロッシェンです。こっちのお姉さんとしっぽり野営でもするんですか?」
ライ「ああ、星の近くでしっぽりな。」
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女神「きのうは尻に敷かれていたと思ったら急にキャラ変か?」
翡翠「私たちの見てないところで何かがあったんじゃないですか。青水さん、お酒ください。水で割ってない白ワイン。そうですね、よく冷えたフリウリがいいかな。干しぶどうと干しイチジクも。」
青水「へい、お待ち...っておい、翡翠もキャラ変か?」
女神「私たちの見てないところで何かがあったんだろ。」
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ふたりは準備を整えると、その脚で口入れ屋へ赴き、熊退治の仕事を受注した。受注書類に必要事項を書き込んでいると、口入れ屋はふたりを興味深そうに眺めていた。子どもに毛が生えたような男女が熊退治...。
ライ「では木登りの第2弾だ。きょうは樹上陣地を構築する。」
ゲルタ「何だ、それは?」
ライ「熊は木登り上手だ。俺たちが15メートルの高さから攻撃したら、すごい勢いで木を登り反撃してくる。だが、すごい勢いで登れるのは下にまで枝がある赤松だけだ。糸杉は地上15メートルのあたりでようやく枝が横に生える。地面から15メートルぐらいは幹だけで掴まる枝がない。登るためには手足4本をすべて使って幹に抱きついてよじ登る必要がある。速度は激減し、攻撃に対する防御の手立てもなくなる。」
ゲルタ「だが私たちも糸杉は登れない。」
ライ「そうだ。だから俺たちは地上15メートルで赤松から糸杉に移動するのさ。そして糸杉から攻撃する。」
ゲルタ「なるほど、枝から枝へ横移動か。」
ライ「そうだ。そのために道具屋でロープを大量に仕入れてきた。樹上ハイウェイを作るぞ。」
ゲルタ「樹上ハイウェイ、何だそれは?」
ライ「言葉通りだ。樹上を自由自在に移動するための道だ。それを使って熊を翻弄する。どこからボルトが飛んでくるのかわからなくなる。」
ゲルタ「おまえ....頭いいな。ライってどっちかというとバカだったはずなのに、頭を打って賢くなったのか?」
ライ「たぶんそうなんだろう。戦場では良くある話だ。」
ゲルタ「で、その漁網は何に使う?熊を絡め取るのか?」
ライ「場合によってはそれもあるだろうが、これは樹上で待機するとき快適に過ごすためだ。ハンモックにもできる。」
ゲルタ「なるほど、たしかに日をまたいで待機となると枝に腰掛けたままでは辛い。頼りになるな、ライ。少し惚れたかもしれん。」
ライ「よし、では赤松を地上15メートルまで登って落下防止の命綱を設置。そこからロープを張り巡らせて人間様専用の樹上ハイウェイを作るぞ。」
ゲルタ「了解だ。」
ライ「人間が今の人間になる前はサルだったのかもしれん。そのせいか、樹上の作業をしていると身体の奥に何か懐かしさを感じる。」
ゲルタ「言えてるな。野生が身体を熱くする。」
ライ「祖先のサルはこうやって熊を仕留めたかもしれないな。」
ゲルタ「今夜来るかもしれない...熊。」
ライ「ああ....そうだ、ちょっとあっち向いてろ。」
ゲルタ「何だ?」
ライ「サルらしく樹上から放尿だ。おまえも膀胱を空にしておけ。熊と対峙したとき恐怖でチビっていたらクロスボウが撃てなくなる。」
ゲルタ「ここでしろっていうのか?」
ライ「そうだ。誰も見ていない。」
ゲルタ「わかったよ。こっち見たら殺すぞ。クロスボウ持ってるんだからな。」
夜になり、交替で眠って監視を続けた。狼の群れが通った。下にいたら囲まれて命はなかっただろう。危険なのは熊だけではない。いつの間にかふたりとも眠ってしまった。快適に過ごせるようにとハンモックを設置したのが悪かったのだろうか。快適すぎて睡魔に勝てなかった。
身体に衝撃を感じて目が覚めた。木の幹が揺れている。下を見ると熊が木の幹に背中をこすりつけている。身体に付いた虫をこすり落とそうとしているのだろうか。運が良かった。熊はこちらに気づいていない。熊が身体をこすりつけているのは、ちょうどふたりが眠っていた糸杉の木である。枝がないのですぐ登ってくるおそれはない。
ライはゲルタに目配せして攻撃を開始した。ボルトが撃ち込まれる。矢が撃ち込まれる。矢は刺さることもあれば弾かれることもあった。刺さってもかすり傷にしかならない。ボルトは熊の厚い毛皮と皮下脂肪を穿ち出血させた。手負いとなった熊は咆哮を上げながら憎き敵を叩き潰そうと上を目指す。しかし糸杉の幹には身を引き上げるために手をかける枝がない。四肢の鉤爪すべてを使って幹に抱きつかなければ登ることができない。そしてそのかっこうで登れば上から降り注ぐ攻撃への対処はできない。熊は気づいた。このまま進めば確実に死ぬ。熊は諦めて逃げだそうとした。
ライ「ゲルタ、援護しろ。俺が仕留める。」
ライは命綱を確認しながら下の枝に飛び降り、ロープの付いたショートスピアを熊に投げつけた。スピアは肩に刺さり鮮血が吹き出した。ゲルタも下の枝に飛び降り、クロスボウを構えてボルトを熊の尻に撃ち込んだ。ライはロープ付きスピアを引き抜き、樹上ハイウェイで赤松に移動して次の攻撃に備えた。熊の動きが緩慢になり、怒りの咆哮は断末魔の叫びに変わった。ライはその瞬間を見逃さず近距離からスピアを熊の頸椎に突き刺した。そしてゲルタもボルトを熊の脳髄に撃ち込んだ。熊はその場で絶命した。
ライ「やったか。」
ゲルタ「やった。仕留めた。死んだ。」
ライは地上に降り熊の絶命を確認してからゲルタに言った。
ライ「俺はここでこいつが盗まれないように見張ってる。おまえは急いで町へ行き運搬用の馬車を手配しろ。こいつは200kg以上ある。でかい熊の死体を運ぶと伝えてくれ。」
ゲルタ「わかった。できるだけ早く戻る。」
市場に運ばれた熊の死体は専門の解体業者によって解体され、毛皮、油脂、そして何よりも高価な胆嚢に分けられ、それぞれの業者に買い取られた。ふたりの手元には50グロッシェンが残った。報酬の20グロッシェンと合わせて70グロッシェンになる。クロスボウの購入資金やその他の支出を差し引いても、40グロッシェン以上の儲けになった。暗緑の疾風は幸先の良いスタートを切った。
倒しました。重力を支配したのが勝因でしょう。この成功体験を元に、これから盗賊退治を生業として暗緑の疾風を運営することになるでしょう。ゲルタ、CVは上坂すみれだと思って読んでください。ライは...どうでもいいw




