読んでる分には気楽だけど、物語の中に入り込むと過酷、フランスは広い
翼「紬、褒め言葉を撤回する。現国オバケ?速読スキル?あんたのは雑読スキルだよ。位置関係とかすべてスルーして瞬間移動できる前提で読んでるだろ。ミリエル様の司祭館、パリじゃないじゃん。パリ近郊ですらないじゃん。」
桜「せっかく手に入れたパリの拠点をあとにして、厳しい馬車の旅、もう3日だよ。Googleマップで調べたら、マルセイユとニースを底辺の角にした二等辺三角形の頂点あたりにある。距離は、パリから750km、マルセイユから150kmだ。」
紬「へっへっへ、ごめんね。でも読書ってそんなもんじゃん。空間のサイズはなくなってどこでもルーラ。」
桜「まだリヨンにさえ到着してないからな。」
翼「ああ、空間転移のチートが欲しい。」
桜「いっそのこと空間時間転移が欲しい。」
紬「そんなにタイパ重視しないで、過程を楽しもうよ。ほら、景色がきれいだよ。」
翼「うるせー。座席が固くて尻が持たない。」
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女神「はっはっは、しっかり物理的試練を味わってるな。何でもカネで殴り倒せると思ったら大間違いだ。」
翡翠「女神ルーラしてあげないのですか?ノヴァーリスさんを抱きかかえてプロイセンからパリまで運んだじゃありませんか。」
女神「あれは例外だ。私自ら介入した案件だったからな。」
青水「紬の言い分も理解できる。読書において空間の物理的サイズは捨象される。それを問題視したフランスの古典主義は、三一致もしくは三統一といわれるルールの中に場所のユニテを定め、劇の舞台を同一の場所に限定した。」
女神「私にとって世界は過去も未来もすべて同一の場所だから問題はないがな。」
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桜「パリを出てもう10日、ようやくディーニュに着いた。」
翼「鉄道の発明を50年前倒ししてくれ。」
紬「どこでもドア、あのアイディアは画期的。さすが藤子不二雄先生。」
桜「司祭館はすぐ見つかるはず。物語にも書いてある。」
翼「大聖堂前の広場の近く。」
紬「玄関に鍵はかかっていない。ミリエル司祭のこだわりだよ。神の家はいつでも開かれていなければならない。」
桜「ミリエル司祭は75歳、独身の妹と家政婦と住んでる。10歳下の妹の名前はバティスティーヌ、家政婦はマグロワール。」
紬「実行する前に小芝居の筋書きの精度を上げよう。まず、ジャンに金貨を渡してって頼むのは露骨すぎる。金貨はふつうに浄財として司教館に寄進し、ジャンには為替手形が入った手紙を渡してもらう。」
翼「お、雑な読解で評判を下げた紬が頑張ってるぞ。」
桜「司教館へは怪しまれない金額ということで金貨を10枚、200フラン。ジャンには1000フランの為替手形だね。」
紬「なぜジャン・ヴァルジャンがここへ来ると思うのかと訊かれたら、3人全員が同じ夢を見たって言う。神秘体験だよ、カトリックと相性がいい。」
翼「完璧だ、紬くん。」
紬「小説には、ジャンが司教館を訪れるのは10月初めと書いてあるからもうすぐだ。」
桜「銀行で為替手形を調達したら手紙を清書して突撃しよう。」
ミリエル「みなさんは?」
桜「私たちの父親は他国の戦争を商機と捉え多額の金銭を貯め込みました。このままでは地獄へ堕ちるかもしれません。私たちは各地の教会を回って汚れた金銭を浄財として寄進し、父親たちの罪を軽減したいのです。どうかこの金貨10枚を貧しき人々のためにお役立てください。」
ミリエル「おお、父親の魂を浄化したいのですね。なんと心優しい娘たちだ。」
翼「そしてもうひとつお願いがあります。この書簡をやがて訪れるジャン・ヴァルジャン氏に渡して欲しいのです。これを読めば彼は罪を犯すことなく人生を切り開けるはずです。」
ミリエル「ジャン・ヴァルジャン?あなたたちはなぜ彼がここを訪れると?」
紬「3人とも同じ夢を見たからです。これは神のお告げに違いないと確信しました。私たちはジャン・ヴァルジャン氏を救わなければならない、それが神の御意志だと。」
ミリエル「おお、なんという奇跡。3人同時に同じ夢、これは否定できない神秘体験です。わかりました。その書簡を預かり、ジャン・ヴァルジャン氏がここを訪れる日にそれを彼に渡しましょう。神の祝福とともに。アーメン。」
桜「よーし、やった!」
翼「ねえ、なんでうちらはペラペラとフランス語が喋れたの?」
桜「あれ?そういやそうだ。」
紬「きっと女神様の加護スイッチが入るんだよ、イベントで。日常では入らないけど、イベントでは言語障壁が消える。」
桜「なるほど...うちらの転移、すべて女神様次第だからそうかも。絶体絶命だと強制帰還だし。」
翼「これから馬車に乗ってパリに戻るの辛すぎる。」
紬「物語はここで3年進んで1818年になるよ。」
桜「だったらこのまま1818年に飛ぶんじゃ?」
翼「あ、ホントだ。身体がエーテル体になってきた。」
紬「イベントの舞台付近に飛びますように!」
桜「あ、拠点に戻った。」
翼「3年も不在にしてたけど、家政婦のオデットにお金を渡して管理させておいて良かった。」
紬「拠点作りから再スタートだと面倒くさくて死ぬ。」
桜「出て行ったときと同じ服装で年格好にも変化がないから彼女驚いていたね。」
翼「オデットはなんだか貫禄が付いてた。ナポレオン戦争のごたごたで領地を失った男爵家の娘、さすが貴族の血筋。」
紬「アルザス出身でドイツ語もフランス語もネイティブ。貴族なのでラテン語もできる。さらに英語も。貴族にトイレ掃除させちゃって申し訳ないけど、まあしょうがないね。うちら富豪だから。」
桜「1818年のジャン・ヴァルジャンはもう偽名生活に入ってるよ。」
翼「そう、ムッシュ・マドレーヌ。」
紬「うちらの資金で始めた小商いが、そこそこ成長して中商いになってる。」
オデット「Mesdames, vous avez des visiteurs.(お嬢様、お客様です。)」
翼「Wer denn?(どなた?)」
オデット「“それがその.....猫が2匹なんですけど。お通ししてもよろしいでしょうか?”」
桜「Let them in.」
ガン・バルニャン「久しぶりだな、怪盗団。」
翼「ガンちゃん、うちら怪盗じゃないよ。」
ニャン・ミャルニャン「探してた男は見つかったのかにゃん?」
桜「すごく遠い場所で手紙と為替手形を渡した。」
紬「今どこにいるのかわからない。」
ガン「ふっふっふ、猫社会の情報網で掴んだぜ。あいつはパリでしばらくうろうろしたあと、北フランスの町に移り住んで工場を始めたみたいだ。そこから先は知らないけどな。町の名前はたしか...」
ニャン「海辺の町モントルイユだにゃん。お魚をいっぱい食べらそうだにゃん。」
翼「ふうん、そのうち行ってみることになりそう。」
ガン「そいえばカルチェラタンでお針子の女が放蕩学生に捨てられたそうだぜ。子どもまで産ませてひどいもんだ。」
ニャン「男を見る目がなかったにゃん。あんたらも気をつけにゃ。」
紬「あ、その人、ファンティーヌだ。胸くそ案件だ。どうしよう。コゼットのママだよ。」
ガン「胸くそは早めに潰しておくのが吉だぜ。これ、猫世界の常識な。」
ニャン「そろそろお暇しようかにゃん。」
翼「だったらオデットから何か食べ物をもらっていってよ。お土産だよ。」
ガン「わりいな、いいのか?」
桜「これからもご贔屓にってね。」
管理人兼家政婦のオデット、まだ画像はありませんが、何か活躍するのかな?これから3人は胸くそ潰しを始めます。鋼鉄の富豪少女旅団を舐めるなよ。猫社会も味方だぞ。




