ガン・バルニャン?それってつまり、あの人が出る話になる、とりあえず拠点確保のための金策だ
桜「ガン・バルニャンが出てきたからもう確定だよ、今回のミッション。」
翼「ジャン・ヴァルジャンの援助。」
紬「物語は1815年に始まって、ラストはジャン・ヴァルジャンがお亡くなりになる1833年。長いよ。」
桜「その間ずっとここにいるの?無理なんだけど。」
紬「深く考えてもしょうがないよ。変な猫が出てくるくらいなんだからなんとかなるよ。」
翼「うん、物語だからショートカットができるはず。」
紬「そうそう、そもそも物語は現実の時間経過とは別の仕組みで進むものだし。」
桜「そう言われてみればそうね。」
紬「イベントに付き合ってやればいいんだよ。」
桜「じゃあまず拠点となる宿を探そうか。」
翼「ああ、19世紀末とかなら立派なホテルがあるのになあ。1815年って...きっとボロボロだ。」
紬「前にパリに来たとき...あれ、何だったっけ?修道院に泊まったよね。」
桜「ヴィジタシオン修道院、マノン・レスコーのときだ。」
翼「でもさ、結局おまるだったじゃん。乙女の尊厳がズタズタだった。安全だからいいってものじゃないよ。」
紬「そうそう、修道院の中庭にお花摘みスポットを探して、月明かりの中...ああ、思い出したくない黒歴史。」
桜「森の中ならキャンプだって言い訳できるんだけど、中庭はヤバい。」
紬「最適解はないかな、拠点の確保。」
翼「私たちは....我慢しないでカネで解決、そうでしょ?」
桜「そうだ、私たちは鋼鉄の金持ち乙女。」
紬「それ....絶対にヘイトを集めるから不採用だよ。」
翼「宝石屋にアミアージュのルースを売りに行こう。」
桜「箱ごと売ると怪しすぎるから、エメラルドとサファイヤとルビーを5個ずつ袋に入れて持って行こう。このくらいなら異国の姫が持ち込んだという言い訳も立つ。」
翼「交渉はスマホの筆談になるけれど、最初の声かけは紬だからがんばれよ。」
紬「ウィ、メドモワゼル。」
桜「こういうディールは、相手が得したと思えば勝ちだ。実際に予想される金額をかなり下回った値段を提示する。うちら、異国の姫だからパリの相場はわかりません。」
翼「おお、清々しくあくどい。」
紬「Nous venons du Japon. Nous souhaiterions que vous expertisez cette pierres précieuses.(日本から来ました。このルースを鑑定していただきたいの。)」
宝石屋「Bien sûr, mesdames.」
紬「Lisez ceci.(これを読んで。) “こちらの希望価格は、ルビーが8万フラン、エメラルドが7万フラン、サファイアが5万フランです。お買い上げいただけるなら、支払いはロートシルトのクレディでお願いします。”」
価格を読んだ宝石商は一瞬あっけにとられ、次に湧き上がる喜色を必死で隠しながら、冷静を装って首を縦に振った。
宝石屋「Compris, mesdames. Je les prends à ce prix-là.(わかりました。そのお値段で引き取らせていただきます。)」
紬「Au fait, bijoutier, j'aurais une autre question. Nous cherchons une maison.(そうだ、宝石屋さん、もうひとつ訊きたいことがあるの。私たち、お家を探してるの。)」
宝石屋「“どのくらいの規模の?”」
紬「“寝室が3つ、化粧室、サロン、使用人室、かな。”」
宝石屋「“いくつか候補がありますが、この手紙を持ってこのパレ・ロワイヤルにあるレストラン »Chez Gustave « へ行ってみてください。そこの主人は不動産物件の情報に詳しい。きっと力になるでしょう。“」
紬「Merci, monsieur!」
3人は100万フランの銀行のクレディを手にして店を出た。そのまま銀行へ行き、1000フラン紙幣を20枚、20フラン金貨を20枚、5フラン銀貨を50枚出金した。これで文無し状態から、現在の日本円にして8000万円ほどの現金を持ち歩く謎の富豪になった。そしてその脚でレストラン「シェ・ギュスタヴ」へ向かった。レストランのオーナーは、宝石商からの書簡を読み、この3人が富豪であることを知ると、安全な高級住宅街にできるだけ手入れの行き届いたアパルトマンを紹介してくれた。当時のパリには珍しく、下水に通じた化粧室も完備している。これで快適な拠点が確保された。
桜「とりあえず家は確保した。羽根が生えたようにカネが飛んで行ったけど、まだ手元に1万フラン以上残ってる。」
翼「明日、ギュスタヴさんが手配する使用人が来るよ。英独仏が話せる人。」
紬「良かった。私ひとりでテンパってたんだから。」
桜「それだけのスキルがあるなら人脈も期待できそう。警備の対応も相談してみよう。」
翼「攻め込まれるようなミッションじゃないけど、同じ建物のなかに警備担当を住まわせておこう。荒事担当。」
紬「ということで、落ち着いたところで“レ・ミゼラブル”のミッションだけど、スマホで小説が読める。」
桜「そうなの?日本語でしょうね?Projekt Gutenberg は勘弁だよ。」
紬「アマゾン・プライムだとKindleで読める。」
翼「それじゃあ、さっそく最初の失敗をなしにしてあげよう。」
桜「ミリエル司教から銀の食器を盗む。」
紬「どうやって止めようか。事件の日にちが書いてない。」
翼「女神様が今ここに転移させたってことは、まだその事件が起こっていないんだよ。未然に防げる。」
桜「あ、ひらめいた。司教館に行って神父様に、もしジャン・ヴァルジャンが来たらこのお金を渡してねと預けるのは?」
翼「お、天才だ!」
紬「神父さんには私たちのことを何て説明するの?」
桜「う.....鋼鉄の金持ち...」
翼「やめいっ!もっとマシなの考えなよ。」
桜「鋼鉄の神の使い。」
翼「神のプロに神の使いを語るのかよ。怒られるわ。」
桜「慈愛の天使。」
翼「おまえね、他の人ならいいけど相手は司教様だよ。」
紬「真実に寄せて自己紹介するのがいいのでは?各地の司教館を訪れて貧者のために寄付をして回っています、と。父親が他国の争いを利用して稼ぎ出したお金を貧者に捧げる旅をしております、と。」
翼「紬、ごめん、私、あなたのことをショタ好きプチ痴女だと誤解してた。すごい、小説家になれる。」
紬「へへへえ、妄想スイッチが入ると止まらないタイプなの。」
桜「じゃあさっそく行こう、ミリエル司教の司教館へ。」
翼「ジャンにはいくら渡すの?」
紬「んーとね、司教館で温かいもてなしに感激したジャン・ヴァルジャンは、囚人時代に稼いだ109フランを持ってるって言ってるから、1000フランを渡して、これで何か小商いを始めなさいって言う。いや、言うんじゃなくて、そういう手紙を添えよう。」
桜「1000フランで小商い、いいわね、それ。」
最初の作戦は、司祭様にお願いして1000フランを渡してもらうこと。これで食器泥棒は防げます。




