34.
あ、しまった。大きな声を出し過ぎた。
「お嬢様、どうかしたんですか?」
「ごめん、ちょっと……、えっと、明日、また馬を用意してもらってもいい?」
「また乗馬ですか?」
「うん、誰にもばれないように、朝早く出たいんだけど……」
「あの、失礼ですが、お嬢様、朝苦手では?」
ごもっともだ。
私は早起きが苦手だ。けど、ヴァイオリンとリリーの為なら頑張ろうではないか!
「が、がんばる」
「……お嬢様、変わられましたね」
「やっぱりそう思う?」
「はい。とてもそう思います。変わらずお嬢様のことが好きですが、今のお嬢様の方がより好きです」
前の私が好きっていうのは百パーセント嘘だろうけど、今の私を好きだと言ってもらえるは超嬉しい!
「エミィィー! 私もエミーが大好きだよ!」
「それは、どうも有難うございます」
わお、塩ッ!!
ここはハグするとこじゃないの? 高校生だった時は友達と気持ちが通じ合った時はハグだったよ。
エミーは「おやすみなさい」と私にお辞儀をして部屋を出て言った。
よっしゃあ! 起きれた!!
カーテンを全開にして寝たから、日の出の眩しさで一瞬で目を覚ました。
ついに、寝坊を克服したよ、母さん!
もう遅刻で反省文書かなくても大丈夫だよ。生活指導室へ呼ばれることももうない。
私は急いでドレスに着替える。
……ドレスで大丈夫かな? いや、むしろドレスじゃないとダメか。町へ行くわけじゃないし。
コンコンッと扉が叩く音が部屋に響く。
「お嬢様、起きていますか? 馬の準備が整いました」
なんて優秀なメイドなんだ! エミーが私の侍女で良かった。
「今行く!」
「……本当に起きてらっしゃったんだ」
聞こえてるよ、エミー。
私は手にヴァイオリンを手にして部屋を出る。そんな私の姿を見て、彼女は一瞬固まる。
「朝練しに行くんですか? 私、てっきりまた町へ行くのかと……」
「え?」
朝練してから魔法学園に行こうと思っていた。魔法学園の中のどっかにヴァイオリンを隠してたらばれないかな~って。
いやいや違う、そんなことよりもなんで私が町に行ったことをエミーが知ってるの?
盗撮されてネットにあげられてた……わけないか。
「私が町に行ってたこと、なんで知ってるの!?」
私の言葉にエミーはしまったという表情を浮かべる。
「だって、私一人で町に行って、もしかして、お母様も……。ああぁぁ、私終わりじゃん」
「落ち着いて下さい、お嬢様。奥様は知りません。昨日町で凄い有名になっていたんですよ。たまたま昨日の夕方に来た庭師が、町で物凄い美人な令嬢を見たと言っていて、詳しく聞いたんですよ。そしたら、それはそれは素晴らしいヴァイオリンを弾いたそうで。涙を流した者もいたと言っていましたよ」
「なんで、それで私だと分かるのよ。他にもヴァイオリンを弾く令嬢いるかもしれないでしょ?」
そんなタイムリーにいるわけないか。
エミーが私の方をチラッと見る。
「その令嬢の見た目は黒髪に紫の瞳をしていたそうです」
私じゃん。それ、絶対私じゃん。
「今度是非私にも聞かせてください」
エミーはそれだけ言って、それ以上探るようなことは聞かなかった。
本当良い子過ぎない? エミー、ヒロインの座狙えるよ。




