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第8話:小さな和室と、賑やかな放課後


ガラガラと古い引き戸を開け、俺たちは3人で玄関に入った。

真由美はまだ少し警戒したような、険しい表情でリュックの紐をぎゅっと握りしめている。小百合は「大丈夫かな……」と言いたげな、不安そうな顔で俺を見つめていた。

「ただいま。真由美、狭いけど上がってよ」

俺が先頭に立ってリビングの襖を開けると、そこにはいつも通りの陽だまりが広がっていた。

そして、その中央に置かれた段ボールのベッドから、小さなサバトラ模様の頭がひょこっと顔を出した。

「みゃあ」

小春が、新参者の気配を察して小さく鳴く。

その瞬間、それまでツンとすましていた真由美の体が、ピキッと硬直した。

「え……。ね、猫……?」

「うん。この前、雨の日に坂道の側溝で溺れそうになってたのを、徹くんと一緒に助けたの」

小百合がそっと真由美の背中に手を添えて、段ボールのそばへと促す。

真由美はおずおずと、まるで壊れ物に近づくようにちゃぶ台の横へ歩み寄り、床に膝をついた。

小春はそんな真由美の指先に興味を示したのか、小さな鼻をフンフンと近づけ、それから親愛を込めるように「にゃあ」と喉を鳴らして指先に頭を擦り付けた。

「……ッ、か、可愛い……!!」

真由美の顔が一気にふにゃりと緩んだ。さっきまでのトゲトゲした空気はどこへやら、完全に目がハートになっている。

「ふにゃあ」

さらに追い打ちをかけるように、襖の隙間から「我が家の絶対権力者」である巨漢のコテツが、のっそりと姿を現した。

「ひゃっ! 大きい猫もいる!」

真由美が驚いて声を上げると、コテツは面倒くさそうに真由美の足元に近づき、そのゴワゴワとした巨体をどさりと横たえた。完全に「撫でろ」というポーズだ。

「コテツはね、こう見えて小春のお兄ちゃん代わりなんだよ。真由美も撫でてみなよ、ここが好きなんだって」

小百合が嬉しそうに言い、コテツの顎の下を優しく撫でる。

真由美も恐る恐る手を伸ばし、コテツの背中を大きなストロークで優しく撫で回した。コテツが「ゴロゴロ……」と重低音の喉鳴らしを始めると、真由美は「すごーい! すっごく人懐っこい!」と声を弾ませた。

「なんだ、2人で怪しいことでもしてるのかと思ったら……こんな最高の秘密基地があったわけね!」

真由美はすっかり上機嫌になり、リュックを床に置くと、小春を優しく両手で包み込んで自分の膝の上に乗せた。

「あはは、真由美、すっかり気に入っちゃったね」

小百合も安心したように弾んだ笑顔を見せ、小春の頭を指先でちょんちょんと突つく。

小春は2人の女の子に囲まれて、嬉しそうに小さな前足をグッパグッパと動かしていた。

「徹、あんたもこっち来なさいよ! ほら、3人で宿題終わらせて、もっとこの子たちと遊ぶわよ!」

真由美がちゃぶ台の上のノートをポンポンと叩きながら、俺を呼ぶ。

「おう、今お茶淹れるから待ってろよ」

台所から冷たい麦茶を持って戻ると、和室の中は笑顔で溢れていた。

小百合がノートを開き、真由美が小春をあやしながら、3人で頭を突き合わせて宿題を解き進める。

40歳の知識がある俺が、2人のわからない問題を少しだけヒントを出して手助けすると、真由美は「あんた、不校登の間に実は猛勉強してたの?」と感心し、小百合は「ね、徹くんすごいでしょ」と、なぜか自分が褒められたかのように誇らしげな顔をした。

宿題が終わった後は、毛糸の玉やちぎった紙切れを使って、みんなで小春とコテツを囲んで全力で遊んだ。

猫たちが予想外の動きをするたびに、3人で顔を見合わせてドッと笑う。

小百合の笑い声と、真由美のはしゃぐ声、そして2匹の猫たちのゴロゴロという音が、夕暮れ時の小さな和室に心地よく響き渡っていた。

かつての俺が、ひねくれた屁理屈で台無しにしていたはずの10歳の放課後。

泥臭く生き直すと決めたこの世界で、俺の周りには、新しく、そしてかけがえのない温かな輪が広がり始めていた。

(第9話へ続く)


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