第14話:土曜日の街角、二輪の花とエスコート
土曜日。秋晴れの抜けるような青空の下、俺たちは約束通り、路線バスに揺られて少し大きな町の中心街へとやってきていた。
今日の目的は、小春のための新しいキャットタワーの品定めと、少し高級なキャットフードの買い出しだ。
「徹くん、お待たせ!」
「遅くなってごめん、徹!」
バス停の待合所で待っていた俺の前に現れた2人は、気合の入り方が違っていた。
小百合は秋らしいチェック柄のワンピースに、お気に入りの白いベレー帽。いつもより少し大人っぽくウェーブをかけたハーフアップがよく似合っている。
一方の真由美は、デニムのサロペットに動きやすいスニーカーだが、インナーのブラウスには綺麗なレースがあしらわれていて、髪もツヤツヤにブローされていた。
2人とも、いつもの緑色の名札をつけた体操服姿とはまるで違う、息を呑むほど可愛らしい「女の子」の姿だった。
「ううん、俺も今着たところだよ。2人とも、すごくお洒落で可愛いな」
俺が工場の気の利く先輩のように、照れもせずに真っ直ぐに褒めると、小百合は「えへへ……ありがと」と嬉そうにベレー帽の端をいじり、真由美は「な、何よ急に、あんた生意気ね!」と顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。からかわれて逃げる同級生の男子とは違う、俺の「大人のエスコート」に、2人は早くも胸を高鳴らせているようだった。
「よし、じゃあ行こうか。今日は結構歩くから、疲れたらすぐ言えよ」
そう言って歩き出した瞬間、左右から一気に熱量が押し寄せてきた。
「徹くん、迷子になっちゃうから、手、繋いでいい?」
小百合が当然のような顔をして、俺の左手を両手でぎゅっと包み込んできた。柔らかくて、ほんのり温かい手のひらの感触。
「あ、ずるい! じゃあ私はこっち!」
真由美が負けじと、俺の右腕をがっしりと抱え込んできた。サロペット越しでも、彼女の一生懸命な熱量がダイレクトに伝わってくる。
(やれやれ……両手に花とはこのことだな)
中身が40歳のおっさんである俺は、内心で苦笑しつつも、誇らしいような、少し面映ゆいような幸福感に包まれていた。すれ違う大人の歩行者たちが、小さな紳士と2人の可愛らしいレディの姿を、微笑ましそうに、あるいは驚いたように振り返っていく。
大型のペットショップに入ると、2人のアプローチはさらに熱を帯びていった。
「徹くん、このピンクのキャットタワー、小春に似合うと思わない? ね、これにしようよ!」
小百合が俺の顔を覗き込みながら、おねだりするように袖を引く。
「ちょっと小百合、小春は女の子なんだから、こっちのシックな緑色のほうが大人っぽくていいわよ。ねえ徹、あんたもそう思うでしょ?」
真由美が俺の反対側の肩に体を預け、潤んだ瞳で同意を求めてくる。
どちらか一方だけに肩入れするわけにはいかない。俺はちゃぶ台を囲む家族のバランスを取るように、2人の意見をじっくりと聞いた。
「うーん、ピンクは華やかでいいし、緑は部屋に馴染みそうだな。じゃあ、間を取ってこのベージュのやつはどうだ? これなら小春の毛並みにも合うし、コテツが乗っても頑丈そうだぞ。何より、うちのお姫様にぴったりだろ?」
俺が大人の冷静さと優しさで満点に近い折衷案を提示すると、2人は一瞬呆気にとられたようにパチクリと目を丸くし、それから同時に吹き出した。
「ふふ、やっぱり徹くんは大人だね」
「もう、あんたといると調子が狂うわ。でも……そういうところ、嫌いじゃないけど」
真由美は小さく呟き、俺の腕を包む力を少しだけ強めた。
小百合も負けじと、俺の左手に指を絡めてくる。
前世の灰色の人生では、絶対に味わうことのなかった、あまりにも眩しくて贅沢な土曜日の午後。
おっさんの理性は、2人の少女の純粋で真っ直ぐな好意に包まれて、心地よく、そして完全に降伏していた。3人の特別な時間は、秋の街並みの中で、どこまでも甘酸っぱく、幸せに流れていった。
(第15話へ続く)




