第9話 こいつ誰だ?
ゴールデンウイークが明けた後の土曜日。お父さんとお母さんは「大事な話がある」と言って私を呼び出した。
2人の表情は険しい。ピリピリといら立っている様子が良く分かる。
「お父さん、どうしたのそんな顔して?」
「……コイツは誰だ?」
お父さんのスマホには宮本さんの電話番号が映っていた。
キッカケは私のキッズケータイから送られる月次レポートを見ていて、異変に気付いた事だ。
4月下旬になって、見知らぬ電話番号が私のキッズケータイに登録されていて、しかも通話代が急増していた。
お父さんやお母さん達の知らない誰かと話をしているようだった。
「学校で出来た彼氏か? 正直に言いなさい」
「子ども食堂で会った知り合いです。彼氏ってわけじゃないけど……」
「じゃあ電話するけど構わないな?」
「!! ちょ、ちょっと待って!」
「何だ? 何か嫌な理由でもあるのか?」
「い、いや。特に無いけど……」
お父さんは親として娘の相手がどういう奴なのか探りを入れるのは悪い事ではないだろう、と思ってその電話番号を入力する。
「もしもし」
宮本さんの声を聞いてお父さんは一気にヒートアップする。
「お前は誰だ!?」
「えっと、まずはあなたから名乗るのが……」
「テメェは何者だと聞いてるんだ!! まさかあむの援助交際の相手か!? 許さんぞそんなの! 俺の娘に手ェ出すなら命捨てる覚悟はできてるんだろうな!? ええっ!?」
一気に火山が噴火する。
「私は子ども食堂であむちゃんと会って知り合いになったんですよ。
それに相手は小学生なのは知ってます。小学生に手を出したら人生台無しになるのは十分知ってます。とてもじゃありませんが手を出すなんて出来ませんよ」
「……本当だろうな? 今時教師でもグループで児童のわいせつ画像を共有する世の中なんだ。お前がそういう人間であるのを否定することは出来ないんだぞ?」
「でしょうね。私みたいな大人が子供に近づくのは父親として許しがたいのは知っています。でもそのような手出しは絶対にしていませんし、する気もありません。バレたら人生終わりますからね。
こんな事偉そうに言える立場じゃないですけど、私は性欲に突き動かされて道を踏み誤る発情期のサルではありません」
「で、何で電話番号を交換する仲になったんだ?」
「あむちゃんの家が貧乏で、お金持ちになりたいって言ってたからその方法を教えてるだけです」
「おい! お前は娘に変な事吹き込むつもりか!? そんなの許さんぞ!」
お父さんは再びヒートアップする。と同時にスマホを顔から離して私に視線を移す。
「あむ! 相手はあむを騙そうとしてるんだぞ!? なんで金持ちになる方法を見ず知らずのお前に教える必要があるんだ!? もしお前が金持ちになったらライバルが増えるって事じゃないか!」
「お父さんもお母さんもお金の事でケンカしてばかりでもう嫌なのよ! 貧乏なんてもううんざり! このままでいる位なら騙されてもいい!」
私は本音をぶちまけた。お父さんお母さんが貧乏だから不幸な目に遭ってるんだと断言した。
当然お父さんの炎に油を注ぐ以外の効果はない。
「何だとぉ!? オレの稼ぎが悪いからって言いたいのか!?」
「そうだよ! お父さんやお母さんがお金の事でケンカしないくらい稼いできてよ! お父さんやお母さんが稼いでこないから悪いのよ!」
「あむ! 父親に向かって何だその口のきき方は!?」
「ホントの事じゃない! お父さんがお酒飲んでばかりだから家にお金が無いんでしょ!?」
「テメェ!」
お父さんは右手で私の髪をつかんで引っ張る。その表情は、普段見ているお父さんだとは到底思えないほどの物だった。今思い出しても背筋が寒くなる位の。
「あむ! 言って良い事と悪い事があろうだろうが!」
「お父さん辞めてよ!」
ここまで行くとさすがにまずいと思ったのか、お母さんが止めに入るが、お父さんは反省する様子はなかった。
「……お父さん最低」
私はお父さんを心底軽蔑しながら部屋に閉じこもって、その日は出て来なかった。
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