第3話 生きても税金 死んでも税金
「ただいま」
「おう、あむ。お帰り」
「……お父さんまたお酒飲んでるの? いい加減にしてよ」
「なんだぁ? オレが稼いだ金で酒飲んで何が悪いんだよ? ドロボーしたわけじゃねえんだぞ? 真っ当な働きで得た金なんだぞ?」
子ども食堂から帰ってくると顔を真っ赤にして、息どころか全身からお酒の臭いがするお父さんはもう十分飲んでるはずなのに、テレビを見ながら更に酒を飲んでいた。完全に目がすわっていて「一番嫌いなお父さん」になっていた。ニュース番組に総理大臣の姿が映ると……。
「チクショウ! 何だよ政治家は!
働いたら所得税、買ったら消費税、持ったら固定資産税、飲んだら酒税、吸ったらタバコ税、乗ったら自動車税・ガソリン税、貰ったら贈与税、生きているだけで住民税、死んだら相続税、税金をとる事しか頭にねえのかこいつらは!」
また始まった。お父さんは私が幼稚園児の頃から変わらず、何かにつけてお酒を飲んでは全く同じセリフをぼやき続けている。
おかげで私もその愚痴は暗記できてしまったけど、これの何がそんなに楽しいのか? 私には全く分からない。
「オレは負けてねぇ! オレはアイツらより苦労している! だからオレはあいつらよりも強くて偉いんだ! どんなことあろうがオレはあいつらより勝っているんだ!」
そしていつもの「勝利宣言」だ。勝ち負けじゃないと思うんだけど……総理大臣に勝ったところでウチが貧乏なのは変わらないのに。
というか、そんな事言ってるお父さん自体楽しそうにしているとは思えない。楽しくもない事を何でそんなにも繰り返し続けられるのだろう? 大人って分からない。
「お母さん、お父さんの事止めないの? 正直言って、お父さん凄くみっともないんだけど……」
「しょうがないでしょ、ウチにはお金が無いんだから」
「またそれか……」
出た、お母さんがいつも言う「お金が無い」だ。逆に言えば、お金さえあれば家の悩みは何でも解決するのだろうか……。
「お母さんってばいっつも、いっつもそれだよね? じゃあお金さえあれば全部解決するの?」
「ええそうよ。お金さえあれば掃除機、洗濯機、ガスコンロ、換気扇、給湯器も最新のものに交換できるし、あむちゃんへのごはんだって作れる。
将来あむちゃんが通う高校や大学の学費も貯められるし、スマホも最新機種が買えるし車だって買える。それに保険だって入れるし……」
「わーかった分かった! もういいってば!」
「あら? あむちゃんが言い出したんでしょ?」
お母さんの口からあふれ出る言葉を何とか止めさせる。物欲の塊みたいな人だからこういう話をするともう止まらなくて、次から次へと欲しい物が尽きる事無く湧いてくる。
「親ガチャしくじった」
自分の親に対してどう思うかを聞かれたら、本音を隠さなくてもよければ。という条件を加えればこんな言葉が出て来る。
正直酷い言葉だとは思ってる。親に向かってそのセリフは何だ!? と言われても仕方のない事だという自覚はある。でも自分でもそう思うのは止められない。
友達の立羽や、スクールカーストトップの佐野原の奴が金持ちや名家なだけに、何で私だけ貧乏なのか? が分からない。
人間は平等じゃなかったの? 昔は奴隷っていう身分があったけど、今の私は立場的にそれとほとんど変わらないじゃない。
「人生は産まれで決まる」
大人から見たら「10歳の女の子が夢も希望も無い事を言うんじゃない!!」って言われるだろうが、これはおそらく揺らぎようの無い事実だろう。だから私はお金が無いなりに美容に時間を費やしている。
金持ちをゲットしての上昇婚。それしか私にはこの貧乏な環境を抜け出す方法が無かった。
……宮本さんと出会うまでは。




