第2話 お金の定義と目的
私が宮本さんという金持ちと出会ったその日……子ども食堂で食事をしながら「授業」は始まった。
「確か、岩田ちゃんって言ったか?」
「あむ、で良いです」
「そうか、じゃああむちゃん。早速だけど、お金って何だと思う?」
「お金……ですか?」
私はカレーライスを食べる手を止め、財布から10円玉を出した。
「これがお金です」
「うーむ……25点だな。高校じゃ赤点って言って、放課後に補習っていう追加の授業を受けてからのもう一回テストだな」
「点数ひっく!」
25点!? 普段はどの教科のテストでも80点は取れるのに、失礼な事言うなぁ。ちょっとカチンと来たのは確かだ。
「じゃあ模範解答はどういう物なんですか?」
「そうだなぁ……『これがお金だ』と決めた事にみんなが納得すれば、それがお金になるんだ」
「……?? よく分からない」
回りくどそうな説明に対して私がそう言うのを見て、宮本さんは「だろうな」という顔をしながら1枚のお札を渡してくれた。
見た事もない外国人の肖像画と1と言う数字、それに裏面には変なピラミッドと鳥っぽい何かのイラストと、なんて読むのか分からないけど「ONE DALLER」とかいうアルファベットが書かれていた。
わん……だらー? なんだろう、これ。
「宮本さん、これは何ですか?」
「これは1ドル紙幣っていう、主にアメリカで使われているお金だ。アメリカではこれは『お金』だが、少なくともここ雛森市ではこれはお金じゃない。何故だか分かるかい?」
「ここは日本だからアメリカのお金を持ってくるんじゃなくて、円を使えばいいって話かな?」
「うーむ、40点だな」
相変わらず点数は低空飛行らしい。
「なぜアメリカのドルが日本ではお金じゃないかというと『お金』と言えば誰もが日本円を思い浮かべて、アメリカドルを思い浮かべる人はほとんどいないからだ。
もし雛森市の住民全員がアメリカドルをお金だ、と思えばアメリカドルでも決済が出来るようになる。
『これがお金だ』と決めた事にみんなが納得すれば、それがお金になる。っていうのはそういう理由なんだ。分かるかい?」
「うーん、だいぶ分かって来たような……」
鮮明に、ってわけじゃないけど、なんとなくは掴んではいた。
「中々頭がいいじゃないか、じゃあ追加の授業だ。今度はお金の目的についてだ。お金の目的って何だと思う?」
今度はお金の「目的」だって?
「お金の目的……? 定義とは違って?」
「良い所に気づいたね、これだけで80点だ」
「急に点数良くなりましたね」
「ああ。良い所を突いたからな」
一気に80点か……それっぽい所は無いんだけど。何か宮本さん、気分屋っぽいような?
「お金の目的は『長期保存が出来て、いつでも他の物やサービスと交換できる』事だ。これさえできれば日本円である必要はない。
江戸時代では『年貢』って言って、お米をお金として幕府に納めていたんだ。社会の授業で学ばなかったかい?」
「お、お米がお金!?」
社会の授業でそんなの学んだっけ……? 勉強は出来る方だと思うけど、よく覚えてないや。
「お金っていうのは『長期保存が出来て、いつでも他の物やサービスと交換できる』だけの物なんだ。ただ、これが『やっかい』なんだ」
「『やっかい』って?」
「ああ。お金はとても便利だから『目に映る物全てがお金さえあれば交換できる』んだ。コンビニの商品や自動販売機の飲み物だけじゃなくて、コンビニや自動販売機『そのもの』だって買う事が出来るんだ」
「!? こ、コンビニそのものを!?」
「そうだ。コンビニを丸ごと買って、そこから出て来る売り上げを全部自分のものにすることだって出来るんだ」
「……」
コンビニを丸ごと買える。そのスケールの大きなことに声が出ない。
「とりあえず今日は『お金の定義』と『お金の目的』をしっかりと覚えてくれれば十分かな。他の話を聞きたくなったら電話してくれ」
出された食事がすっかり冷める位には話に夢中になっていた。
今思えば、もしここで宮本さんに会って無ければ、ここで電話番号を交換しなければ、お父さんが死んじゃってたかもしれないから人生どうなるか分かったもんじゃないんだよね。




