第24話 暴かれる真相
その日、犬飼家ではGPS機能付きの犬の首輪からデータを抽出し、パソコンに移していた。
飼っている黒豆と「雛森市愛犬家の会」の協力者の飼い犬につけてもらった特殊な首輪から得られたデータだ。
「どうだ? 大丈夫そうか?」
「オヤジか。ああ、バッチリだ。首輪のGPSデータを地図情報と組み合わせて……よし!」
パソコン上の地図にはGPSデータで飼い犬の移動経路が表示されていた。
「はぁーっ、すげえなあ。こんな事も出来るなんて」
「まぁパソコンに疎いオヤジには無理だろうね。よし、見よう」
2人は地図上に映るGPSデータによる飼い犬の移動経路を見ていた。まずは……あむだ。
「ふむ、あむちゃんは……うん。キチンと散歩させているみたいだね。特に変な所はないな。じゃあ、佐野原君は……!? 何だこりゃ!?」
パソコンに表示されたデータは「ドッグ・ウォーカーという仕事」としては明らかにおかしい事を示していた。
「!? どうした? 何かあったのか?」
「あ、ああ。佐野原君は30分散歩させるって言ってるのに、公園に20分以上も滞在してるぞ。明らかにサボってやがる!」
「!? 何!? サボりだと!?」
「データを見る限りはそう言わざるを得ないね。あんなに安いと思ってたからもしかしたら何か裏があると思ったら……やっぱりだよ。LINEは出来るよね? みんなに伝えた方が良いよ」
父親はシニア向けスマホで早速LINEでメッセージを送った。
現代社会では情報は爆速で広がる。犬飼家から端を発した事の真相はその当日の太陽が没する前に人から人へ、SNSからSNSを通じて雛森市全体に行き渡った。
翌日、そんな事など全く知らずに公園に居座りスマホのショート動画を見ていた佐野原に、怒れる来訪者がやって来た。
「佐野原君!! これは一体どういうことなのかね!?」
「雛森市愛犬家の会」というグループが存在している事さえ知らない佐野原には「寝耳に水」の事である。
愛犬を佐野原に預けた飼い主たちが公園に全員集合していた。皆、眉を吊り上げ顔は怒りで真っ赤で、直射日光を浴びたアスファルトの道路に匹敵する程カンカンであった。
「どういう事って……ちょっと水飲みのための休憩でして……」
「佐野原君! キミはそうやって平気な顔して嘘をつく人間だったのか!? もうこっちで調べはついてるんだぞ! 犬の散歩をすると嘘ついてサボっているんだろ!?」
「ちょ、ちょっと待ってください、ちょっと待ってください! とりあえず落ち着き……」
「言い訳をするな!! 君は自分の立場を分かっているのか!?」
大人6人に囲まれて睨まれているようではいくら2枚舌の佐野原と言えど言葉が出てこない。
それに追い打ちとしてパソコンから印刷した証拠の画像を突き付ける。
「こちらには犬の首輪につけたGPSデータという動かせない証拠があるんだぞ。どう説明するつもりだ!?」
「いやぁ~、偶然ってやつは重なるもので……」
「口を開けば言い訳ばかり!! どうして君は『ごめんなさい』の一言が出てこないんだ!? もういい! お前には2度と頼まん!」
完全に怒り心頭な犬の飼い主たちは佐野原から愛犬のリードを奪うように手に取り、愛犬を連れて帰っていった。
商売においては「お金がない」のは案外何とかなるし、大して問題ではない。問題なのは……「信用」だ。
信用は地道に石を1つずつ置いていくように重ねる事でしか得られないくせに、崩れるときは秒で崩れる。そして失った信用は大抵永遠に戻ってこない。
「終わり」である。将棋やチェスにおける「詰み」である。もはや佐野原に出来ることは何も無かった。
このどん底から脱する起死回生の策なんて存在せず、現実は非情であってアニメのように都合よく上手く行く事は無い。全ては古い言葉で言う「自業自得」に収束するのだが。




