第23話 疑惑の種
「ハァ……」
お盆に入る頃には(ところでお盆って何をするんだろ? よく分かんない)客を佐野原の奴に全員取られてしまい、契約が0件となってしまった。
季節は真夏で毎日雲の無い晴天続きだけれど、それが嫌味に思える位私の心にはどんよりとした濃い鉛色の雲がかかっていた。仕方なく夏休みの宿題をしに図書館に向かう、その途中だった。
近くの公園で佐野原の奴が、ベンチに座って近くに設置されていたリードフックにリードを引っ掛けて空いた手でスマホをいじっていた。
「また」だ、今朝に限った話じゃない。佐野原の奴が事業を始めてから、コイツがここにいるのは結構見かける。
「佐野原……サボってんの?」
「サボってなんかいねーよ。水分補給のための休憩だよ休憩」
水分補給……という割には本人も犬たちも水を飲んでる様子は無かった。サボっているわけじゃない、と言うが到底信じられない。
「あれ? 佐野原君じゃない。何やってんの?」
「ああ、犬飼さん。休憩ですよ、暑いから水分補給をさせているんです」
「そうか、ならいいけど……」
偶然会った犬飼さん相手にも平然とした態度で接していた。コイツの2枚舌にはいつも驚かされる。先生もPTAもコイツが私に対して高圧的な態度をとってるとは思ってもないらしい。
◇◇◇
その日『雛森市愛犬家の会』のLINEに、不穏なメッセージが投稿されていた。
緋縅:「佐野原君は仕事をサボって公園でスマホをいじってるみたい。本人は水分補給だ、って言ってるけど水を飲んでる所は見て無いし、犬たちに水を飲ませている様子も無いのよね。何とか彼の事を信じたいんだけど」
犬飼:「ちょっとやってみたいことがある。試すことは悪い事かもしれないけどどうしても確かめたいんだ。協力してくれないか?」
犬飼はメンバーに協力を依頼した。
◇◇◇
佐野原の奴が犬飼さん相手にも2枚舌を使ってるのを見た日の翌日、今朝も仕事の代わりに図書館に行って宿題をしようかと思った時、キッズケータイが鳴った。
犬飼さんからだ。
「もしもし。犬飼さん、どうしましたか?」
「ああ、あむちゃんか。できれば今から黒豆の散歩をしてほしいんだが、良いかね?」
「は、はい! 構いません! 今すぐ向かいます!」
仕事が、来た! 大急ぎで身支度をして向かった。
「どうも『犬の前足』です」
「おお、あむちゃんか。前みたいに黒豆の散歩を頼むよ」
そう言って愛犬の「黒豆」を私に託してくれた。犬飼さんが言うには黒豆君は吠え癖もすっかりと無くなり、同じ犬とは思えない程見違えたという。
実際、散歩の最中他の犬や人とすれ違っても、1回も吠えることは無かった。昔は私が家に来ると散々吠えてたのに……変われるんだなぁ。
「? あれ?」
良く見たら黒豆君の首輪が新しくなってる。最近買い替えたのかなぁ? まぁいいか。気にせずお仕事を続けることにした。
「む……」
散歩の最中、私は佐野原の奴とすれ違った。5匹の犬を連れていて、私から客を奪うだけでなく新規開拓も行っているらしい。
「ソイツは黒豆か。って事は犬飼のとこだな?」
お客様に向かって名前を呼び捨てとは……相変わらす嫌な奴だなぁ。
「必ずお前を廃業まで追い込んでやる。お前ごときがオレに歯向かったことを絶対に後悔させてやるからな。忘れるなよ」
彼は敵意と憎悪をむき出しにした目線で私の事をにらんでいた。2万円の事が本当に屈辱らしい。あの程度でここまでやるだなんて、正直信じられないと思うのだが。
その後、佐野原の奴と出会ったこと以外は特に問題なく仕事は終わった。
黒豆君の散歩を終えて、私は犬飼さんの家に戻って来た。
「おお、あむちゃんか。ありがとう」
犬飼さんは私の事を出迎えてくれていた。そこへ……
「オヤジ、データはきちんと取れたか?」
若いお兄さんが犬飼さんに話しかけて来た。誰だろう? オヤジって言ってたから、犬飼さんの子供なのかな?
それに「データがどうのこうの」って、何をしてるんだろう? まぁいいか、仕事はきちんとやったんだし。




