第20話 私の勝ち
黒豆君へのしつけが始まって1週間が経った。
「犬飼さん、その後の黒豆君はどうですか?」
「ああ、上手く行ってるよ。前は30分も吠え続けていたけど今では3分で黙るようになったよ。あむちゃんのおかげだ、ありがとう。後で報酬を渡すから来てくれないか?」
「はい、分かりました。お伺いしますね」
黒豆君は賢いのかすぐに物になった。雑誌には1ヵ月はかかるって書いてあったのに凄い速さだ。
犬飼さんの家に行って報酬を受け取った。
「す……凄い」
私はあまりの凄さにただひたすら呆然となっていた。
犬の散歩で困っていた4人の契約者から毎日1200円の報酬を受け取り、犬飼さんの黒豆君の吠え癖を直した報酬でさらに8000円プラスされる。
全財産のお小遣いを足すと、2万円というとてつもない金額になった。
「あむ、聞いたぞ! ドッグウォーカー事業で相当儲けてるって聞いたぞ!?」
「え? お父さんもお母さんも知ってるの?」
報酬を受け取った翌日の朝食の話題は私の仕事に関する物だった。
「もちろんよ。聞いた話じゃ毎日1000円以上の売り上げがあるんだって? だったら8月からでいいから最低でも半分はお母さんに渡してちょうだい。高校や大学に行くお金としてあむちゃん用の口座に振り込むから」
「宮本さんから5万円もらった時みたいに使ったりしない? 大丈夫?」
「お母さんの事信用してないのね。見たければいつでも通帳見せてあげるから心配しないで」
「はーい」
お母さん大丈夫かなぁ? 宮本さんの5万円を使っちゃった前科があるからなぁ。
夏休みになってからはなるべく暑くなる前、午前9時から10時くらいに仕事を終わらせるため、午前8時半には家を出るようになった。それをどこで知ったのかは分からないが、アイツが私の家の前にいた。
「よう300円。調子はどうだぁ?」
佐野原の奴は人を小バカにした人を見下す目と薄ら笑いを含んだ口で声をかけて来た。今までの私なら言い返せずにいたが、今日の私は違う。
「ところで佐野原君、確かあなたお小遣い月1万円もらってるんだよねぇ?」
「それがどうした?」
私は財布から1万円札2枚を取り出して、見せた。
「ワタクシ、2万円ほど稼いでいますの。あなたのお小遣いの2倍! 自由に使えるお金があるんですよねぇ」
「!? な、何だとぉ!?」
「悔しかったらあなたも働いたらどうかしら? では失礼させていただきますわね。一万円君?」
「うがあああああチクショオオオオオオオ!」
ざまぁみろ! 佐野原の奴が悔しがってるのを見るとスカッとするなぁ。胸の奥にさわやかな風が入ってくるようで清々しい位に気分がいい。
その日は佐野原の奴が悔しがる姿を思い出しては上機嫌になり、あっという間に仕事は終わった。いやぁ、気分が良いと時間の流れって早くなるのね。
でもこの時は気づいてなかった。佐野原の奴は私の想像を超えるようなビックリする位執念深い奴だってことに。
それでこのドッグ・ウォーカー事業が破綻寸前まで追い込まれることに。
◇◇◇
佐野原があむに負けた日の夕方。彼は父親に猫なで声を出しながらお願い事を告げていた。
「パパ、お願いがあるんだけどいいかな?」
「急にどうしたんだい? まぁいい、パパに何でも言ってくれ」
「実は……」
佐野原はある計画を父親に持ち掛けた。
「へぇ! そんな事をしようだなんていい子に育ったなぁお前は。分かった、パパの会社の広報部に頼んで最高のチラシを作ってやるよ」
「わぁい! ありがとう! パパ大好きー!」
「ハハハッ! この位だったらパパは喜んでやってやるよ」
(ククク……あむの奴、オレに逆らったことをトコトン後悔させてやる!!)
佐野原はパパに猫なで声をすると同時に心の奥底でほくそ笑んでいた。これであのクソ生意気なアイツを潰せる、と。
悪い噂を流すだけでは「潰した」という実感がわかない。自らの手でアイツの客を奪ってこそ「潰した」という満足感を得られる。そう思っていた。




