第18話 お仕事の本当の目的
「そうか。順調のようだな」
私は初仕事を終えた後の夜、自分の部屋でキッズケータイを使って宮本さんに無事にドッグウォーカー業を始めることができ、お客さんも付いたことを伝えていた。
「あむちゃん、今から仕事をするうえで絶対に忘れてほしくない事を教えよう。この世に存在する全てのお仕事の本当の目的は『困ってる人を助ける』事なんだ」
「え? そんな簡単な事で良いんですか?」
「ああ。実際あむちゃんの仕事だって、例えば『膝が痛くて歩きたくない人の代わりに犬の散歩をさせる』んだろ? まさに『困ってる人を助ける』事じゃないのか?」
「!? え!? 何で『膝が痛い人がいる』って分かるんですか!?」
「犬の散歩を代わりにやってもらいたい人なんて、大抵病気やけがで歩くのが難しくなった人が相場だからね。それくらい分かるさ」
そこまで言われてようやく気付いた。鈍いなぁ私。
「ただ、お金があまりにも便利すぎる代物だからお金欲しさに『親切の押し付け』をしてお金を奪っていく大人は『とんでもない程』多いんだ」
「親切の押し付け、ですか?」
「ああそうだ。お客様の事を見ないで『お前のためにオレはここまで親切な事をしてやったのだからカネはもらっていくぞ』って言ってお金を奪っていく人は『とんでもない程』多い。
社長という会社の中では一番偉い人でも、そういう考えに染まってる人は『あむちゃんがビックリする程』いるんだ」
「お金が便利だから奪ってでも欲しい、ってわけですか?」
「そうだ。お金はあまりにも万能で便利すぎるからこそ、奪ってでも欲しいっていう人はいくらでもいる。
例えば『振り込め詐欺』なんてやったら警察に捕まるのにやる人が後を絶たないのは、お金があまりにも便利な物だから逮捕されることになってでも欲しいからなんだ」
どうやら「悪い大人」は私には見えないだけでたくさんいるらしい。なりたくないなぁ……なったら宮本さんから嫌われるだろうし、それがイヤだなぁ。
「大丈夫です。私はそんな人にはなりませんから」
「その心意気は良いけど、世の中に出ると『明日までにお金を用意しないと終わってしまう』っていう事はいくらでもある。そうなると、あむちゃんでも悪事に手を染める事もあり得る話だ。
それだけお金ってのは『ものすごいパワー』を持っているんだ。俺の知り合いにもその『ものすごいお金のパワー』でおかしくなってしまった人は数えきれない位いる。だからお金に関することわざが今でも数多く残ってるんだ」
「ことわざですか……例えば何があります?」
「んー『地獄の沙汰も金次第』とか『金の切れ目が縁の切れ目』とか『悪銭身に付かず』とか色々あるから、あむちゃんも調べてみると良いぞ。今じゃスマホやタブレット端末1つで調べられるようになったから楽になったよ。
俺が子供だった頃は辞書を引かないといけなかったからな。パソコンなんて親は買ってくれなかったしなぁ」
明日お父さんやお母さんがタブレットを使ってなかったら調べてみようかな。ショート動画見るのと違って嫌な顔はしないだろうし。
「ちょっと脇道にそれたけど『仕事というのは困ってる人を助ける事』っていうのはしっかりと覚えて欲しい。本来の仕事ってのは『人助け』なんだ。それを守っていれば道を外れることは無いだろう。
逆に、これを忘れたら簡単に踏み外すから絶対に忘れないようにするんだ。いいね?」
「は、はい。分かりました」
宮本さんがきつい口調で圧力をかけるように言うとなると相当な事なのだろう。
「宮本さん『ものすごいお金のパワー』でおかしくなってしまった人は数えきれない位いる。ってさっき言いましたけど、やっぱり凄く嫌な体験ですよね?」
「まぁな。昔は気の合う良い奴だったけど全員、とまではいかないけど結構な数がカネのパワーに頭を乗っ取られて、地位も名誉も無くして落ちぶれてしまったんだ。あむちゃんが知らないだけで結構ある話だよ。
お金の知識に関して学校で教えてくれないし、親からの教えは大抵酷く歪んでて不正確だ。正しいお金の知識さえ誰かから教えてくれたらねじ曲がることは無かったんだろうけど……まぁ『たられば』っていう話をしてもしょうがないんだけどさ」
宮本さんに対しては恋愛感情は持てなかったが、彼の言う「おかしくなった人」にはなりたくはない。とだけは確かに思ってた。




