第12話 サイフチェック
宮本さんのアドバイスで無事にお父さんが胃がんの手術を受けて2日が経った。
季節は6月。梅雨入りでどんよりした天気が続いていたが、我が家はそれとは正反対にカラリとした陽気だった。
「岩田さん、その後の調子はいかがですか?」
宮本さんがあの後どうなったか? お父さんの様子を見にやって来た。旧式の自動車に乗って来たのを見ても、多分誰も大金持ちだとは思わないと思う。
「宮本さんですか。いやぁ、あの後は順調で手術は無事成功して、経過観察と術後の自宅療養が終われば山場は超えたってなりますね」
あの時以来お父さんは金持ちに対する目線が少し変わって、前は酒を飲んでは文句をぶつけてばかりだったのにそれが無くなった。
手術は無事に成功して自宅療養で1週間ほど休むことになって、その間は傷病手当金をもらってるからその間のお金の心配はしなくても良いらしい。
「あとお酒も辞めました。さすがにガンにかかった、となるとこりましたよ」
あと、さすがに大酒を飲むのは懲りてお医者さんの勧めもあって断酒することになった。お酒のせいでがんが出来た可能性もあるとの事で、今後は1滴たりともお酒を飲んではいけないらしい。
宮本さんの登場で家族仲がバラバラになりそうだった所だけど、何とかなったのは本当にほっとしてる。まだ10歳なのに家族がバラバラになったら立ち直れなかったかもしれない。
「ところで宮本さん。わざわざウチまで来るって事は、何か用があって来たんですよね?」
「ええまぁ。あむちゃんを図書館にでも連れて行こうかなって」
「図書館? なんで?」
「娘さんに本を読む習慣を付けさせようと思いまして。あとは、やることが無い岩田さんのために暇つぶし用の本でも借りようかなと」
「一応オレたちみんな図書カードは持ってるぞ? みんな、見せてやれ」
私たち家族3人はサイフから雛森市立図書館の利用カードを見せた。
「ふーむ。本を読む習慣はあるそうですね。良い事だと思います。貧乏な人は大抵本を読む習慣はありませんから結構珍しいですね」
「まぁ本を読むと言っても私はファッション雑誌が主で、お父さんもお母さんもエアコン使わなくて済むからって何もせずに居座るだけだけどね」
「そうですか。ところで岩田さん、それに奥さん。あむちゃんは良いとしてお二人のサイフを見せてもらいたいのですが……構わないでしょうか?」
後で聞いた話だが、この時宮本さんは「あむちゃんのご両親が図書カードを取り出すために見せたサイフをちらりと見たが、明らかに酷かったので詳細を聞き出したかった」らしい。
お父さんとお母さんは宮本さんの言う事を素直に聞いて見せると……
「うわぁ」
「目も当てられない」とは言ったもので、宮本さんはお父さんとお母さんの財布の中身を見て「もの凄く汚い物」を見た時の思わず目を背けたくなるような顔をしていた。
お父さんもお母さんもサイフの中はレシートや割引クーポンが詰め込まれており、カードを入れるポケットはポイントカードが隙間なく差さっていた。
1つのポケットにカードを2枚3枚重ね入れるのは当たり前で、サイフはパンパンに膨らんでいた。
「岩田さん、あなた達自分のサイフにどれくらいお金があるか分からないですよね?」
「宮本さん、バカにしないで下さいよ。4千円くらいはあると思いますよ」
「買い物は私がしてますから把握してます。多分3千円くらいはあるはずです」
「『思います』とか『あるはず』じゃなくてちゃんと出しましょうよ」
2人はサイフからお札を取り出すと……
「!? あれ!? 2千円しかない!」
「!! え!? なんで千円しかないの!?」
予想は大ハズレ。思ってた額と入ってる額に差があった。宮本さんが後で聞かせてくれたが「2人とも典型的な貧乏人のサイフだった」らしく、
「これくらいは入っているだろう」という予想が外れているのも特に驚きはしなかったそうだ。
「……とりあえずレシート全部出しましょうか。あとカードも」
お父さんもお母さんも宮本さんに言われるがままにサイフの整理を始めるが、入ってた割引クーポンは全部期限切れ。レシートも1週間前の物すらあり、何のために買ったのかさえ、買った本人も忘れているという有様。
ポイントカードも持ってるだけでここ最近、使った様子は無いようだ。
テーブルの上はあっという間にクシャクシャのレシートの山。これだけの量、よくあんなサイフの中に入っていたな? と思ってしまう位だ。
「奥さんは……ん?」
宮本さんはお母さんの財布から出てきたレシートの中に混じってATMの利用明細票が数多く混ざっている事に気づいた。どうやらお金が必要な時に応じて細かく引き落としているらしい。
「奥さん、あなたATMで細かくお金を引き落としていますね? これだと利用するたびに手数料を引かれますから1ヶ月で使う額をまとめて引き落とすだけで数千円は使えるお金が増えますよ」
「それはできません」
お母さんは即答した。迷ってる様子は一切なかった。
「私、お金があったらあっただけ使ってしまうんです。子供の頃から貧乏で何も買えなくて、社会人になったらその反動でお金があるとついつい使いたくなってしまうんです」
「そうですか……なら少し試したいことがあるんですがいいでしょうか? ついでに岩田さんも参加していいですか?」
そう言うと宮本さんは車に乗ってどこかに行ってしまった。10分ほどして戻ってくると封筒を持って戻って来た。その中は……
「!? な、何これ!?」
1万円札が十枚出てきた。宮本さんは慣れた手つきでそれを5万円に分けてお父さんとお母さんに渡した。
「岩田さんと奥さんにこれを1日預けます。明日取りに来ますのでそれまで使わずに持っていてください。
何故そうするかは明日話します。とにかく今日はこのお金は使わずに取っておいてください。では帰ります」
そう言って宮本さんは車に乗って家を後にした。
あの人、お父さんやお母さんにお金を渡して何をさせるつもりなのだろう……?
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