どっちにしても
門番のところに、陛下の侍従の方が待っていた。手に絆創膏的な何かを貼られてすぐに城の中へ。
「父上! だから、ヴィトリークは何度も止めてくれて、連れ出したのは僕なんです!!」
「だがね、ローレンツ」
「遅くなりました、大変申し訳ございません」
割って入ると、二人の視線は同時に僕を向いて、ローレンツが駆けてくる。
「怪我をしたの? こんなに、ぼろぼろになって」
「治していただきました。陛下のご厚情に感謝いたします」
そして、僕の言葉の続きを待つ陛下の前に頭を下げる。
「殿下を危険に晒したこと、誠に申し訳ないと思っております。この責任を取って第二皇子殿下の遊び相手の任、辞退させていただくことでお許しを願えるでしょうか?」
これで、正解であれ!! 貴族の駆け引きや言葉なんか知らないんだから!
「そうだな、子供のしたことだ、子ども同士の決着で片付くこともあるかもしれんな」
陛下は相変わらず何かを企んだような顔で笑っている。
「どう思う?」
「子ども同士で決着というのは、難しいかと思いますよ?」
振り向けば父上が、僕の後ろに歩いてくる。
顔は、正直言って怒っている。
「ヴィトリークは遊び相手を辞退することで責任を取ると言っています。しかし、親としては、責任を取るべきは息子ではないと思っているのですが」
「嫌だ! 僕、ヴィトリークと学校に通うの、楽しみにしてたのに……」
「殿下は、無理やり息子を連れ出したのは殿下だと再三訴えておられますからね」
「怪我をさせたのだって僕だよ、僕は無傷で、途中から蜂も追ってこなくなって」
「ヴィトリークが引きつけて離れたから、ですか?」
「わからない。でも門にたどり着いた時にはもう蜂も鹿もいなくなってたから、僕に怪我はないんだよ。転んだ擦り傷だってもう治してもらったんだから」
「では、陛下。ローレンツ殿下には怪我はなく、かつ森に無断で侵入したのもローレンツ殿下。という殿下の主張はどうお考えですか」
「その通りなら、むしろ私が謝罪せねばならんな?」
全員の視線が、僕に向く。
「殿下を止めたのは、本当です。木登りをしていたら蜂の羽音が聞こえた。だから帰ろうとした矢先に、囲まれそうになって、逃げたんです。けど、鹿は蜂の巣を壊したか何かで襲われて逃げてきていた。鹿を追っているのなら僕たちは方向を変えれば逃げられると思って、殿下だけでも先に逃げられるように、鹿の注意を引いて、別の方向へ逃げた。僕がやったことはこれで全部です」
そっと父上を伺えば、今度は少し楽しそうに笑っていた。
「素直な子なんですよ。いい子で」
「両者の言い分が一致してるからな。ローレンツはしばらく謹慎しなさい。遊び相手は変える必要はないが、月一だな」
「そ、んな!」
「学校が始まれば学校で遊べばいいだろう。城に呼ぶのは月に一日になるとはいえ友人として呼ぶのならその頃にまた頻度を考えればいい」
「じゃあ、ついでにシャーロットもその頻度に下げますね」
「ん? 何か理由があるか?」
「筆頭婚約者候補という噂が広まってお茶会で苦労しているようなんですよ」
「内定してもいいが?」
「うちの子にはまだ早いです」
じゃ、と父上は僕を抱き上げて応接室を出る。
「父上、お話の途中だったと思うんですけど」
「あとはお父さんと陛下が話し合うから、ヴィクスは帰って治療だよ」
「毒消しもしてもらいましたよ? 絆創膏も」
「応急処置だよ、家に帰ってちゃんと診察を受けなさい」
父上は、ちょっと過保護ではないかな。転んで怪我をした、というわけじゃないけどその程度の傷に見える。魔物の付けた傷だから、ということなんだろうけど。
「蜂も毒を持っているからね? 棘鹿の棘だけじゃないかもしれないだろう」
蜂の毒は毒消しではいけないのかな。
不思議に思いつつも、父上に抱っこされて、僕は馬車に向かう。
「まったく、優しいのはいい事だけど、殿下と行かないという選択肢も取れたんだよ?」
「それで殿下が怪我をしたらいけないと思うんですけど……」
「そうだよ? どうせもっと強く止めるべきだったんだとか難癖はつけられる。だけどこの怪我をヴィトリークが引き受ける必要はなかった」
まぁ……そう、かな?
いや、でも怒られることは確定だったのかぁ。悩むところだなぁ。
「僕は、殿下が怪我をしなくて良かったと思ってますよ」
「一般的な正解は、そうだね」
父上が薄く微笑んで、僕を馬車に降ろす。
「森に入るのを止められなかったら、殿下の代わりに怪我をしてでも、殿下を守る。それが正解というのはそうだ。でもね、お父さんは、ヴィトリークが怪我をしない方が嬉しかったな」
父上は、向かいに座って絆創膏の貼られた僕の手を撫でる。
「でも、そうしたら……」
「そう、殿下は大怪我をしたかもしれない、そうなればヴィクスは怒られただろうね。月一じゃなく、ヴィクスが言い出したように遊び相手をやめる事になっただろう」
走り出した馬車、チラッと宮殿から走ってくるローレンツが見えた気がしたけど、すぐに見えなくなった。
「それでも、やりようはあったんだよ。まず、ローレンツ殿下と遊べなくなることはない。だって学校で会えるんだから。遊び相手である必要はない。ウチが殿下に怪我をさせたって噂は出るだろう。でもそれは『止めたのに聞かなかったのは殿下』という事実があるはずだろう? 陛下の心象は悪くなっても我が家が皇家に忠誠を誓っている事に変わりはないんだから、そこは頑張って回復することもできるだろう」
たらればの話ではあるが、すらすらと出てくる対応に目が回りそうだ。
「あと、ウチが皇宮と近すぎるって文句を言う人たちがいてねぇ……これを機に少し離れても良かったんだけど」
「殿下を助けない方が、良かったんですか?」
「いいや? 助けたのは偉かった。そうするべきと言う正しい行動だったよ。一緒にいかなくてもよかった、というもしもの話だよ」
そろそろうちが見えてくるだろうか。
父上が少し窓の外を気にして、僕の手をもう一度撫でる。
「痛いところはないかな? 虫に刺されたりしているかもしれないから、先生のところにまっすぐ向かいなさい」




