年相応?
ひとまず簡易ではあるが部屋全体に魔法付与を行ってもらい、僕は毛布を被った自分の足元だけ見つめながら過ごす。
「そのうち収まる。俺はそうだったから大丈夫」
移動してきたジュノがそう言って慰めてくれるけど、もし顔をあげてジュノに傷でもできたらと思うと怖くて動けない。
医師の診察も僕の希望で遅らせてもらっている。
無機物だけでなく人にまで何か起きてしまったらと思うと怖かった。
「……何かきっかけがあれば」
ジュノが僕を抱きしめて呟いている。
ジュノにも起きる可能性はあったはずなのに、彼は自分で制御できたらしい。
あの廃屋で過ごした時期に、一度起きたことだからと。
父上は、魔力の制御の時何か言っていただろうか。見えて、わかって、それをどう使うかが魔法の全てだと言っていたけど。
ここにずっと過ごしているわけにもいかないし、移動の馬車まで壊してしまうようなことはないと思いたいけど、何を破壊してしまうかわからないままでは動けない。
「お外に、出てもいいですか。ちょっと気分を変えれば落ち着くかも」
「うん、イゾラに頼んでくる」
ジュノが走っていって。
流石に魔法の領域は魔法のない世界に生きていた経験ではどうにもならないと、ため息を吐く。
「庭園にご案内します」
ジュノとイゾラさんが戻ってきて、僕は毛布を被ったままイゾラさんに抱かれて庭園に出る。
「どうかな。少しだけ、外を見てみて。ここなら倒れてきて危ないものもないよ」
「お二人に何かあればわたくしがお守りします」
二人にそう言われてそっと毛布の下から外を見る。
「えっ」
「何かあった?」
「気になるものがございますか?」
部屋の中ではずっと足元しか見ていなかったせいだろうか?
木に、花に、小さいのはもしかして、地面にモグラでも……?
魔力が、あちこちで動いている。
こんなに見えたことはなかったのに。
シャボン玉のように不定形のものであるのは間違いないけれど、それが以前見ていたものよりかなりはっきりと『持ち主の形』を映している。
自分の手を見てみても、相変わらず僕の魔力は見えないけれど。
恐る恐る、ジュノの方へ視線を向ける。
意外にも、ジュノの魔力は大きくは見えなかった。
しかし、ところどころジュノの姿そのものが歪んで見えている気がする。
目を凝らせばそんなことはないのだけれど、焦点から外れた部分が不定形に歪んで見えるような。
これが、魔力が高い、ってことか。シャボン玉の層が厚くなったようなものかな。
なるほど、とその光景に見入っているとバチッとジュノの頬あたりに火花が散った。
「あっ!」
長く見つめすぎたんだ。慌ててジュノから視線を逸らす。
どうしようかな、ジュノは自分の時はそのうち落ち着いたと話してたけど……毛布を掴んだ手をもう一度見て。
「わっ?!」
僕の手から毛布がはじけ飛び、指先に痛み。
痛い、ってことは僕の魔力じゃ……ないな?
「え……」
僕の手が赤くなったのをみて、ジュノが狼狽した声をこぼす。
なるほど、時間差でジュノも落ち着いてきたってことかなぁ。
「ヴィクス、手が」
「だいじょうぶ、傷ができたわけじゃないみたい」
「ジュノ様……大丈夫です、落ち着いてください」
「で、でも」
自分にはもう起きないと思っていたのに、暴走が始まってしまったら混乱するよね。僕は別に輪ゴムで弾かれた程度の痛みだったのでそんなに気にすることはないと思うんだけど。
駆け寄って手を伸ばしたジュノの指先が、僕の目の前で火花を散らして弾かれる。
まるで、僕の魔力とジュノの魔力が反発したみたいな形。
「ジュノお兄ちゃん、辛かったもんね。カレド夫妻に会えてもう大丈夫って思えたんだね」
「そ、れは……そんなことより」
「大丈夫だよ、僕はびっくりしただけで、痛くないから」
自分の魔力がどれくらいかはわからないままなので、魔力値としては主要キャラ内最高であるジュノを落ち着かせる方が先だろうなぁ。
「魔力を整える方法、知ってる?」
ケイゼルさんとイゾラさんの方へ問いかけてみたけれど、二人は申し訳ないと謝りながら首を振った。
自分たちはそれほど魔力を持っていないからと。
確かに、イゾラさんは明るめだけど茶髪、ケイゼルさんは暗い赤毛だ。
「よし、じゃあ人を頼るしかないかな」
わからないことはわかる人に頼る! 僕を迎えに来ると手紙が来ていたのを思い出して。
「父上に聞いてみよう、一緒に」
「え……そんな、恐れ多いことは」
本当に、父上の噂って、どんなものなんだろう?
僕がアルセンだって明かした時のジュノの反応もそうだったけど。
まるで取って食われる化け物みたいな反応されるんだけど。
「ケイゼルさん、父上からの迎えはいつ頃ですか」
「早ければ明日の夕方と聞いています。乳母の方がいらっしゃると」
「アニーが来てくれるんなら、大丈夫。アニーも魔法を使えるから」
ね、とまだ怯えた顔をしているジュノに微笑んで見せる。これでは抱きしめてもらうことはできないなぁ、とちょっとだけ寂しくなった。
毛布越しに抱き締めてもらってちょっと安心できていたから。
「お兄ちゃん、だいじょうぶ。僕は大丈夫だから」
さっきまでの僕と同じように足元だけを見つめているジュノは拳を握ったまま。
実は、僕も体に力を入れて耐えていないと、ジュノの魔力に反発するように体のあちこちに輪ゴムが当たったような痛みがある。
でもそれを悟られてしまうと、今以上にジュノは狼狽するだろうと思った。
僕から触ろうとしてしまうと、多分ジュノの方に同じように反発が起きるだろう。
そうでなくても僕たちの周りは、小石が跳ね飛んだり少し離れた植え込みが何かを投げ込んだように揺れたりしている。
僕は努めて何にも焦点を合わせない、魔力が外に向かないよう自分の手足にだけ意識を向けていてそれだから、アニーが到着するまではこのままでいるしかない。
「旦那様」
かけてきた侍従が、何事かケイゼルさんに囁いて、ケイゼルさんが頷いた。
「ヴィトリーク様、医師が診察を申し出ています。ジュノ様も」
あ、そうか。僕がびっくりして診察を伸ばしてもらったけど、この屋敷に常駐している医師というわけでもないから、帰るのかもしれない。
明日アニーが迎えに来るということは、その前に、ということ。
「わかりました、お医者様は……耐えられそうですか?」
「医師は我々よりは魔力に耐えられるはずです」
「じゃあ、診察をお願いします」
僕だけが、という状況で無くなって不謹慎ながら落ち着いて考えることができるようになっていたことに気がついて。
まだ狼狽しているジュノの方を心配する気持ちによるものかもしれない。
「ジュノお兄ちゃん、一緒にお医者様に聞いてみよう」
「う、うん」
手を繋ぐことはできないけれど、手招きをして屋敷に戻る。
俺の方が、お兄さんだからね、精神的には。




