一難去って
ロメリテの方へ入ったのかと思っていたら、ここはまだエルヴェリア首都の内だった。
僕の予想とあまり外れていないようだ。
カレド領主がこちらに滞在するときに使う別荘と公務館を兼ねた建物の中らしい。
「ロメリテでもカレドは比較的安定していますから、こちらに館を構える許可を得られているのです」
そうは言ってもかなり郊外ではあるが、たしかに外国の拠点はそう多くない。
領主の力も弱いが、さらに王国としては統率が弱いと聞くロメリテならカレドの館を置けているのはかなり高待遇だろう。
「旦那様、お茶のご用意をいたしました」
メイドさんの声が聞こえて、ケイゼルさんが頷く。
「遅くなって申し訳なかったですね。お茶の間に入浴の準備や部屋の支度をさせてください」
「ありがとうございます。感謝します」
運ばれてきたティーセットを待って、勧められてから手を伸ばす。
パリン
「……え」
僕が手を伸ばしたティーカップが弾け飛んだ。
即座に立ち上がって、僕を守るようにそばに来てくれたケイゼルさん。
でも……今のは……。
窓が割れたりもしてない。ケイゼルさんが何かしたわけでもない。
むしろ、僕……が……?
「大丈夫ですか、ヴィトリーク様。すぐに屋敷の周りを確認させます」
「違う……え、でもなんで……」
「ヴィトリーク様?」
確認のため、お菓子、クッキーを取ろうともう一度手を伸ばす。
パァン!
クッキーもまるでハンマーで叩いたように弾け飛んだ。
取ろうとしたクッキーだけではなく、周りのクッキーも巻き添えに。
陶器のお皿ではなく、つる編みの籠だったから、お皿は割らずに済んだけど。
「僕……が……何かしてるみたいです」
「……」
ケイゼルさんの顔が厳しくなっていく。
「気を張って……おられたのですね」
「どう……いうことでしょう」
「ヴィトリーク様はまだ魔法、魔力を扱う経験がないのでは?」
「最近……魔法を習い始めて……」
「……なるほど。」
「制御が苦手な子供などが気を張って、ストレスにさらされ続けたあとに起きる事がある症状です。一時的に魔力の制御が乱れてしまうのです」
「今、触れようとしたものに魔力を流して壊してしまったのですよ」
「……それ、ジュノは大丈夫なんですか……?」
一日攫われていただけの僕が、そんなことになったのなら、5年も経っているジュノは……?
「そうですね……確認してきます。すみませんが、少しこちらでお待ちください」
「いえ、気にしないでください」
触れようとしたものに魔力を流してしまう。
それだけでティーカップが弾け飛んでしまう……?
……怖くないか?
他のものを壊してしまわないよう薄目で辺りを見ながら、ソファに座り直す。
でも、うっかり目を閉じたら、寝てしまうかもしれない……。
外はまだ暗いのだろうか、カーテンの引かれた窓にふと目をやっただけ。
破裂音と共にカーテンも窓も……。
え……『触れようとしたものに』じゃなかった……?
思わず誰か入ってくるのではないかと扉の方を向きかけて、その手前、壁掛け燭台に視線を止めた。
パァン!
「これ……は……やばいかもしれない」
ちょっと視線を向けたものが、粉々に弾け飛んでいく。
なんだ、どうしたらいいんだこれ。
目を閉じて、心の中で落ち着けと繰り返し唱える。
深呼吸して……そうだ、魔力の暴走ってことは使い方を習った時……確か魔力とは、について習ったはず。
どんなふうに見えた……? シャボン玉みたいに体を包んで、ゆっくり動いて……。
連続した破裂音、思わず目を開けると、テーブルに置かれていたティーセットが……。
ダメだ、どうしよう……!
「ジュノ様の方はまだ問題なさそうでしたが、ヴィトリーク様は大変ですね」
部屋に入ってきて、ケイゼルさんが微笑んで見せる。
「大丈夫ですよ、魔力のないものは弾け飛んでしまいますが、魔法付与がされたものは多少耐えられるはずです」
「でも……僕銀髪なので」
「そう……ですね」
魔力があれば耐えられる、僕の魔力が優ってしまったら壊してしまうということだろう。
ケイゼルさんも苦笑いになってしまう。




