― はじまりの裏側 ― (8)
車のクラクションが耳に入り、閉ざしていた目を開けた。
待合室の表に停車している車に、待ち人の姿を確認すると、ベンチから立ち上がり、後部座席に乗り込む。
「遅れてしまい、申し訳ありません」
静かに詫びてきたので、時計を見ると……なるほど。まだ余裕はあるとはいえ、いつもの彼にしては着くのが遅い。
「なにがあった?」
「トンネルの手前で事故があったので、迂回いたしました」
「で?」
いつもだったらその程度でわざとらしく詫びなど入れないだろう? とバックミラー越しに顔を見る。
「人因だと思いますが、ホテルの件もありますので……」
「ホテル? あれも人因ではないのか?」
先程までいた駅に立つ唯一のビジネスホテルに宿泊していたが、火災が起きたために、仕方なく隣町に泊まることになったと聞いていた。
「はい。従業員のタバコの不始末が原因、と聞いておりますが……」
なにか、による妨害を気にしているようだ。
「わかった。違うだろうが、一応気にしておく」
「申し訳ありません」
信号待ちのタイミングで、助手席に置いてあった紙束を渡してきた。
「ホテルを出る前に渡されました。目を通しておいてほしいとのことです」
身を乗り出して受取ろうとして、動きを止めた。紙の上にそれが載っていた。
「先程、駅に着く直前に置かれていました」
神妙な口調を一転させ、報告してくる声を聞きながら、深く嘆息しそれを摘み上げる。
「おまえも呼ばれたみたいだね。早々に始末して、酒を調達するよ」
「かしこまりました」
送られてきたものをふっと消して、渡された資料に視線を落とす。口元にはあるかなきかの笑みが浮かんでいた――。
彼らとのつきあいは、実に長い。
時代に、または代替わりした彼らの望みに沿うように、その都度、方途も変化させてきた。
しかし、あのときの約定だけは、彼らもそして己も未だに違えたことはない。
己の【魂】が終わりを告げるまで――。




