― はじまりの裏側 ― (7)b
聴きなれぬ呼称に首を傾げる。
「識者、とはわたしのことですか?」
『いかにも。そなたは此岸に在していながら我らを認識できるだけでなく、見向きもしなくなって久しい神と同等かそれ以上のことができる者であろう。さもなくば我らのみならず、【境界】にこれほど関与することなどできなかろうに』
ずいぶん買い被ってくれる。
「ふふっ、あなた方を識る者だから識者ですか…。それで、なんでしょうか?」
『ふむ。そなたに敬意を表したいがゆえに、そう呼ばせてもらうよ。のう、此岸の識者どの。我らは【境界守】に坐して初めて心底から喜びを味わった。話すこと、聴くこと、見ること、先の時を思うこと。そのすべてをもたらしてくれた識者どのに心より礼を申そうぞ』
己も見て見ぬふりをしていたのに、償いの意味もあるのに、なぜ礼など……。
彼らが申してくる礼を遮ろうとするも、軽やかな声が聴こえ、逆に口を閉ざす。
『先にそなたはこう申したがな此岸の識者どの。彼岸に渡っている間は代わりの者をよこすと。されど我は……いや我らは代わりの者など要らぬ。そなただけが来てくれればそれでよい。再び此岸に戻ってくるのを待つぐらい、これまでのつまらぬ時よりも短いであろうよ。ゆえに我らは識者どの以外には使いを出さぬよ』
己以外にも、把握する者がいれば便利であろうと思ってのことであったが……。己の先行きを思い描き、冷たい汗が顔をつたうなか、がなり声と冷え冷えとした声が続けざまに聴こえてきた。
『然り! そなたが時を止め彼岸へ渡るとき、我らは【魂】となったそなたがわかるであろう。そのそなたを我らは丁重に送り出そう。ともに過ごした時を惜しみながら。そなたが来られぬ間、我らは待とう。再びまみえる日を愉しみながら。そなたが新しき生命となって此岸に戻る時、我らは寿ごう。幸多き時を過ごせるように!』
『いずこかにいて、我らを認識している此岸の識者どの。我らは約定しよう。そなたの手を、そなたの心を、気高き魂を煩わせることなく、坐すことを狂わぬことを。我らの寿命が尽きるまで』
彼らがなにを伝えようとしているのかわからなかったため、反応が遅れた。




