― はじまりの裏側 ― (5)d
己でもこれはいかがなものかと思うのだが、逆に彼らはなぜか喜んだ。
そんななか、艶やかな女性が声をひそめて、神に断りを入れなくてもよいのか? と聴いてきた。
いや、むしろ逆に口を挟むな手を出すなと釘を刺しにいかなくては。うん。そうしよう。それに加えて、愚策を施したが故に、このような仕儀になったのだと分からせなくては……。
『のう此岸の者よ。そなたは終りのあるものであろう。いずれは時を止め彼岸へ渡り、我らのもとに来ることは叶わなくなるであろう。なれば我らは再び坐すことに飽きてしまうであろうよ』
さて愚策を立案したのは誰であったかと、過去の記憶を探そうとしたら、なぜか抑え気味のがなり声で少年が聴いてきた。
確かに、己は彼岸と此岸を行き来する。だがこの先、当分終わりはこないだろう。過去の己をすべて記憶しているからこその提案だ。
懸念することがなくなり、彼らの表情が明るくなったとき、手のような青葉を繁らせた楓と壮年の男を映し出した四つ目の大きな欠片から、冷え冷えとした声が滔々と聴こえてきた。
『なにゆえに、我らのことにそこまでする? そなたになんの利がある? そなたは終りあるものなれど、我らのみならず神とも対等に渡り合えるほどの者なのであろう。なれば【境界】を消し去れば此岸の益にもなろうになぜせぬ? それに我はそなたの纏う気に覚えがある。我らを【境界守】に撰し、己もまた【境界】に縛られ続け、飽いて狂うてとうとう彼岸へ渡った同胞に連なるものであろう。なのに……』
他の【境界守】たちに遮られたが、確かに彼らも不思議に思たのだろう。なにせ誰も見向きもしなかったのだから……。
己や此岸に対する利益? そんなもの、はなから考えていない。むしろ心底どうでもよいとさえ思っている。




