― 立春に還る ― (7)
「――で、此岸に戻した女を五代目当主に預けて、それきり会わなかったよ」
恋愛のれの字もない。ありふれた面白みもない話だ。
「えー、ちょっと、杖の持つ役割とか、その女がどう生きたのかとか、なんで気色悪い装飾が施されているのかとか、まだ言うことあるでしょう!?」
黒猫が聞きたりないとわめき始めたので、むんずとしなやかな体を掴み、小さな頭に手のひらを当てると、昼間に得た杖の記憶を流し込む。
「うわー、えげつない仕置だわ、これ。うわー、うわー……」
しばらく虚空を見つめていた黒猫は、ぶるっと震えた。
「この手の女って、やっぱり死ぬまで変わんないのねー。それでも知りたいもん?」
「絶対ではないが、知っておいて損はないわな」
今後、同じようなことがないとも限らぬしな……と松伯が生真面目にいうが、それはどうかと思う。
若干の不満はあるが、これ以上問い詰めても望みの答えが得られないと達観したのか、黒猫がふっと消えて、【境界】が静かになった。
注がれた酒をすっと飲みながら、「のう、シキ?」と不思議な表情を浮かべていた。
「なんです?」
「我にこの色は似合うか?」
「ええ、とても」
一目見て気に入った。破天荒な女だったが、椿の腕は衰えなかったようだ。
「迷惑料の対価には、釣り合いますよ。誰のために縫ったのか知りませんけどね……」
年末も押しせまった休日――。
主は朝早くから電話で呼び出され、文句をいいながらも最低限の片づけだけをして飛び出していった。
あとから主の側に行けばいいかと、テーブルの上に広げっぱなしの新聞に寝そべり、暇つぶしに眺めていたら、気になる記事があった。
老舗デパートが、会社再生法の手続きに入ったと――。
「あらら、優良物件じゃなかったのか……つまんないの」
たしっと黒くて長いしっぽを振った。




