― 立春に還る ― (6)d
女の首に手刀を落とし気絶させると、茶室の四隅に固定した小柄を引き抜き、術を解除させると一本の黒松があるだけの【境界】に戻った。
さすがに大掛かりで長時間保たせる術は堪える。放っておかれた瓢箪を掴み、じかに喉に中身を流し込んでいく。
「大事ないか、シキ……」
「問題ないですよ。すぐに落ち着きます」
「のう、シキ?」
「なんです?」
「そなたは、この女を生かしたかったのか?」
「楽に死なせるつもりはありませんよ。この女には一生をかけて罪を清算してもらわなくてはいけませんから」
両親、兄とその妻子、奉公人を殺させた罰をだ。
「我にはこの女が罪を償うとは思わぬが……」
「ええ、無理でしょうねぇ」
さて、どうやって監視したものかと考えていると、松伯が己の本体から一枝を折った。
「松伯!?」
「これを使ってくれるか、シキ?」
我は、この女がなにを考えどう生きていくのか、知りたいのだと告げてきた。
枝を受け取り、苦笑しながらも頷くと杖へと加工する。この女しか持つことができない、手放したら死へと繋がる杖に……。
「これが我のもとに戻ってくるのは、この女が死んだあとか……」
ああ、楽しみだなあと子供のように目を輝かせる松伯に、
「松伯、刻がきました。仕舞いですね」
「うむ。では……」
黒松にもたれた松伯に見送られ、女を担ぎ【境界】を後にした――。




