― 立春に還る ― (4)e
半刻後。さすがに疲労が増した状態で、茶室に姿を現わせば、うつ伏せでじたばたもがいている女の上に松伯が端座していた。
「やはり動こうとしましたか」
「うむ、シキがいなくなってすぐにな」
人間は座布団に適さぬなと呟き、女から降りる。
「普通は枕ですかね。でも座布団の気持ちにもなってみますか?」
軽く戯言を言うと持っていた虫籠の扉に指を添わせる。
淡い光の玉が一つふわりと出てきて、女の口に吸い込まれた。ほどなくして、女は身を起こしたが、両目は閉ざされていた。
「盲者かい?」
「……はい」
か細い声で女が返事をする。
「とりあえず、腹を満たすといい」
粥をよそった椀を女に持たせてやれば、少しずつ食べ始めた。
「さて、と」
女が落ち着き払っているのを見て、問いただしていく。
「お前さんが、どこの誰で、何をしていたのか、話してもらおうか?」
「……あの……」
だが、女は首を振り、困った表情を浮かべる。
「悪いがなんにも覚えていないんですとかいうつまらない小芝居はしないどくれ。わたしらは、お前さんに付きあってやる暇も義理もないんだ。あくまでも白を切るなら、陣屋脇の井戸端におまえさんを捨てに行けば、いいだけなんでね」
松伯がなにか言いたそうにしたが黙らせる。
先程、女に触れて記憶は読み取っている。だが、女自身に語らせなければならない。
ぐずぐず渋っていたが、諦めたようにぼそぼそ語り出した。




