― 立春に還る ― (4)c
まず、女の状態を確認した。胸は動いているので、とりあえずは生きている。だが、起きる様子はない。着物も手足もさほど汚れていないし、傷もたいしてない。なら己の【境界】に入ってきた迷子ではないだろう。よじ登ることも飛び降りることも人間にはできないから。通路に取り込まれていれば、通ってきた同胞が連れてくるはずだから、これも違う。
これは困った。さてどうしようと思ったら、女がいきなり身を起こした。驚いて声をかけたが反応がない。そうしたら四つん這いになって、此岸の出入口の前まで勝手に進むと、座り込んで動かなくなったんだ……。
「なにがなんだかわからん、どうしようかと思案しているうちに、唐草が来ようとしていたから、とっさに隠した……」
だんだん声が小さくなって、ぼそぼそと告げてきた。
はあ~と大きなため息をついた。こんな滅多にお目にかかれない極上の餌を与えられたら、まあ隠したくはなるだろう。
だが、しかし……。答えはわかっているが、一応問いかける。
「なぜ、わたしにまで隠そうとしたんです、気がつかれないだろうと思ったのですか?」
「シキが来れば見つかるのはわかっていた。だからそれまでにどうなるのかを調べたかった……」
果たしてこの女は、生きているのか死んでいるのか。生きているとなればいつ死ぬのか。または、どのように此岸に戻るのか。はたまたここで死んだらどうなるのか……。
よくもまあ、色々と思いつくものだ。
「ねえ松伯。わたしが来たときに隠そうとせず素直に告げていれば、こんなに怒りませんでしたよ」
「すまぬ。次……があればだが、隠すことはしない」
堂々とやられてもそれはそれで問題だが……まあ、よしとしますか。
さて……。
「なら、この女を始末しましょうか」




