↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界守  作者: 琥珀猫
PR
60/89

― 立春に還る ― (4)b

 涙目で顎をさすっている松伯を放っておいて、まったく反応しない女のもとに行く。

 二十は越してなさそうだ。浅黒い肌は百姓女か。それにしては今は崩れているが、まげは武家女中のようだし、唯一着ている肌襦袢じゅばんは木綿ではなく絹だ。

 そしてこの女が反応しない理由が、厄介さを増長させている。女に触れ、あちこちを手早く確認していき、舌打ちをもらす。

 恨めし気に見ている松伯を呼び寄せ、女の近くに座らせた。

 「とりあえず一つ聞く。ここに来たときからこの有様ありさまかい?」

 こくんと肯いてきた。まったく……後でどうしてくれようかと、ぽかんと頭を一つ叩いておく。

 さて、どうするか……試したことはない。が、まあ大丈夫だろう。

 袂から今度は小柄を四本引き抜き、必要な範囲を定めて突き刺す。

 ふうっと息を吐き、印を結べば小柄同士が光の糸で結ばれた。ついで一音を発すると、光で囲まれた空間が徐々に歪んでいき……。

 「なにをした、シキ?」

 「【境界】の一部に此岸を重ねたんです」

 今住んでいる場所は狭い長屋だし、術には耐えられないだろう。それならば、時折立ち寄る精霊の地の片隅にこしらえた茶室ならば、一晩ぐらいはもつだろう。幸いここは最低限の食材は保管されている。

 とりあえず炉に火をおこし、ほしいいで粥を拵えながら、松伯を見据える。

 「さて、松伯……」

 興味深そうにあちこちを忙しなく見ていたが、名を呼ばれると首をすくめた。

 「いつ、どうやって、この女が現れた?」

 「知らん」

 「松伯!」

 「いや、だから、ようわからん。気がついたらおったのだ」

 駄目だ。一つ一つ解きほぐしていくか……。

 「いつ、気づいた?」

 「……唐草からくさが来る前だ」

 「いなかったと確信できるのは、いつです?」

 「……たぶん、蘇芳が戻った後まではなにもなかったと思うが……」

 およそ一月近くは、【境界】にいたことになる。宙を見つめ、

 「では、蘇芳、煌蓮こうれん、獅子丸、氷見ひみあかつき実光さねみつの内のどこかですね?」

 「うむ、そうだと思う……」

 「どこで、見つけたんです。【境界】の出入口なら、すぐに気づくでしょう」

 「どこで? ああ、我の身である黒松の影に伏せておった」

 だからすぐにはわからなかったのだ……。思わず首を傾げる。まるで女が自らの意思で身を隠したみたいだ。

 「それで、見つけてどうしたんです?」

 「……」

 「松伯?」

 まるで子供のように、首を左右に振って、言うのをためらっている。

 ふっとため息をこぼすと、目を合わせる。

 「松伯、あなたの知りたいという本能をいさめるつもりはありませんよ。だから、教えて頂けませんか? あなたは、見つけたこの女を使って、どうしたんです?」

 しばらくして、ようやく重い口を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。