― 立春に還る ― (1)
最初にあれを思い出したのは、そう――思わぬところで、変人写真家に遭遇した日だ。互いにこの後、予定がなかったために、一緒に食事でもするかということになった。
しばらくぶりだったため、近況やら撮影したい場所に関する情報やらを話した後に、「そういやよ」と【境界】についての話となった。
「俺みたいな同行者っていんのか? つうか、なんかしらの条件ってあんのか?」
いや、別段設けてはいない。ただまあ、口が堅くて、それなりに順応できそうな者――つまり、なんらかの異能を持っている者――を連れて行く。
そして、【境界守】が気に入れば、彼らの方から次も連れてこいと言ってくる。
また、逆の場合もある。【境界】の存在を知った者が、連れて行けと催促してくるのだ。問題なさそうな人物なら連れて行く。そして彼らが気に入らなければ、それっきりだ。
「つまり、俺みたいなもんか」
確かに。最初こそ違うが、まったくもってその通りだ。緋王はこの男を大層気に入っていて、毎回連れてこいとうるさいし、この男もまた、他の【境界守】にも逢ってみたいと催促してきた過去がある。いや、今なお催促してくる。
「なら、まったく俺みたいな……つまり、迷子から【境界】の存在を知ったやつっていんのか?」
いない。迷子は【境界】を認識していない。
「なんだそれ? いや、ちょっと待てよ。そもそも迷子ってどうやってなるもんだ?」
此岸の者が勝手に入ってくるという感じかな。または【境界】に取り込まれるかな。
「神隠しみたいなもんか……。で、なんで認識できない?」
それは簡単だ。意識がない状態で入ってきて、起きることなく出ていくから。当然、【境界】にいたという記憶がない。
「そういやあのとき、俺が起きているのを不思議がっていたのは、それでか……」
ええ、同行者でない限り、【境界】では起きていることはできない。ただ、生きたまま出てこれるのは、【境界】に入った者のみだ。通路に取り込まれた場合は異なる。
「あ、ミイラかっ!」
どの【境界】にも此岸への出入口があるため、空気も循環させている。だが通路は使用しないときは、ほぼ真空に近いために、取り込まれたら最後、よっぽど運がよくない限りミイラになって、此岸に放り出されるか、通路を使用する【境界守】に発見される。
「なので、イチさんみたいに通路に取り込まれて、覚醒して【境界】まで移動して、酒盛りしたあげく記憶を持ったまま帰って、緋王に気に入られてリピーターになるような変人は、まずいない」
今後はどうなるかわからないが、現時点では彼一人だけだ――。
というような話をしてお開きになった後、ふいに思い出した。
彼とはまったく違った状態で入ってきた者がいたことを。あれは、そう……落ちてきた者――落人と名付けたはずだ。
もっともこの時は、すぐに忘れた。しょせんは過去の出来事だったから――。




