― 立冬に迷う ― (7)
京都での仕事七割、観光&弟子の修行三割を終えて戻ってきた後、「三つほど質問あるんすけど、いいっすか?」と神妙な顔をして聞いてきたので、まあ一応答えることにした。
俺も猫やマスターに質問攻めした覚えはあるからな……。で?
「結局、あの庭園ってなんすか?」
ああ、当たりさわりのない部分だけで、深く掘り下げなかったからな……。秘密にしとけよと前置きし、
「あの庭は、もとは処刑された殿上人の墓地だったらしい。植物に愛され過ぎて、愛し過ぎて、寺に押し込められた末に処刑された名も剥奪された親王のな。それから、あそこは木精の溜まり場のようなもんになったらしい」
ついでにいえば、地主は造園会社ではないんだとか。マスターの兄である会長はかつてそれを知らずにあの土地を売却しようとし、強烈なしっぺ返しを食らったとか。管理人の老婦人も「あの兄だけ欲まみれのボンクラですからね」と醒めた表情だった。
後継者はいるのかと、以前聞いてみれば、何人かあの庭に気に入られているらしいが、おそらく現社長の子になるんじゃないかとのこと。
「迷子の原因となった沼って、結局ガセっすか?」
俺は自室に保管している個人的なアルバムを持ってきて、一枚の写真を見せた。――満月に照らされた水面下に逆さに建っている家の写真――
「撮った後、朽ち果てて倒壊しちまったし、今は沼すらねえよ……」
問題の山は、子捨て山と呼ばれていて、この建物は孤児院だったらしい。地滑りで窪地まで流されて、逆さにはまったんだとか。そのまま水が溜まり沼と化したらしい。なぜか雨上りの満月の夜にしか水面は透き通らないため、付近の村でも知らないらしい。
まあ一応ガセじゃなかったが、あの兄弟子は陰険野郎なんで、行きませんでしたよと後日報告しておいた。
この写真は、あの後猫に連れて行かれたときに撮った一枚だ。なんで迷うことなく案内できたのかとかは……まあ、考えまい。猫だから、だ。
「結局、師匠の前世の絵師って誰っすか?」
「……知らん!」
俺は思わずそっぽを向いた。八束が視界の端でにんまり笑っているのが見えたので、今度猫に会ったときに余計なことを言わせないようにすることと、胸の内にメモした。
人間誰しも秘密の一つや二つは持っているものだ。誰が言うか……。
もう一つ。俺や八束のことについても、ここでは語ることはない。




