― 立冬に迷う ― (5)c
私は大学を卒業後すぐにこの業界に入りました。水が合っていたのか、すんなりと馴染みましたね。そして、結婚し子育てに追われるなか、周りからそろそろ自分の店を持ってみてはと勧められるようになりました。
私自身もいずれは、と思っていましたが、何分一生を左右することです。
そんなある日、父から電話がありました。明日来てほしいと。母はすでに亡く、兄夫婦との同居を解消した父は、老人ホームに入居していました。
翌日、ホームの玄関で姉夫婦と鉢合わせになりました。やはり父に呼ばれていたのです。
父は、面会室で二人の先客とともに待っていました。
二人とも、この場にはあまりそぐわない黒い服を纏い、一人は背の高い年齢不詳の女性。能面のような白皙は、私たちが入ってきても全く動かず、右眼を覆っている黒い眼帯がより一層気味の悪さを醸し出し、二人目の後ろにひっそりと控えていました。
二人目は、おそらく十歳前後の小柄な少女でした。髪で左顔面を隠し、父の正面に座っていました。
私は思わずぶるりと震えました。あの夜の庭でたった一度だけ会った少年と同じ気配がしました。姉も同じように感じたのでしょう。義兄の手を無意識に掴んでいました。
「お久しぶりでございます」自然と私と姉夫婦は揃って頭を深々と下げていました。
少女はいたずらが見つかってしまったかのように小さく笑うと、「息災で何よりだ」と短くいい、満足そうに頷くなり席を立ち、もう一人の女とともに部屋から出ていきました。




