― 立冬に迷う ― (5)b
ですが、まだそれは序の口でした。夜の庭の中から、影が現れた瞬間の庭は……言葉では言い尽くせぬほどのものでした。
音もなく父の側までやってきたのは十に満たないほどの痩せ細った少年でした。
青白い顔と青い左眼が特徴の少年を見たとき、私は必死に震えを抑えていましたね。庭が歓喜に湧いている理由は、この方だと直感しましたから。隣を見れば、姉もやはり青ざめた顔をしていました。兄はただ、どこから入ってきたコソ泥が、と喚いていて父に黙れと叱られていました。
兄を黙らせた後、父は深くとても深く頭を下げ、「お久しぶりです」と声をかけました。
少年は父を見て微かに笑いながら軽く頷くと、まず私の方を見ました。
「向かぬな。水の気が濃すぎる。今縛りつければ淀むであろう。自由にさせておやり」
次に姉を見て、ほうっと小さく感嘆し、
「よいな。ただまだ根つくには及ばぬ。ふむ。嫁ぎ先もよいな。子を自立させたのち、夫婦で根をおろすがよい」
最後に父を見て、
「久しいな数明。大層世話になっているようだ。そなたやそなたの妻、そなたが育てた弟子の手が心地よいというておる。礼を言う」
「ありがたく存じます。夜も更けております。今宵はこちらでお過ごしください」
父は丁寧に礼を返し、平屋に泊まるように申し出たが、少年はかぶりを振り、
「そちらで過ごせは、そなたの子らが息苦しかろう。日の出前には出て行くゆえ、いつものように茶室でよい」
ふわりと笑うと、少年は夜の庭へと溶け込んでいきました。
父が部屋に上がり電気をつけ私らを前に座らせると、私に告げました。
「許しが出た。好きなように生きろ。ただし、最低でも年に一度は庭に奉公しろ」




