― 立冬に迷う ― (5)a
……すでに聞いているかと思いますが、私の先祖は不侵の庭を含んだあたりの寺僧だったのですが、なぜ作庭の道に進んだのかという記録は一切残されておりません。現代に至るまで、一族に与えられた使命はただ一つ。あの庭を管理しろ、のみです。
私があの方に会ったのは、昭和四十年代です。兄三人、姉二人の末っ子としてあの家に生まれましたが、長男、次男、長女の三人は、戦時中に亡くなったため、私は位牌でしか存在を知りません。
なので造園会社は、十五歳離れていてすでに妻子のいる三男が後継者とされていて、下の姉も年内に嫁ぐことが決まっていた頃でした。
住居を建て直していたため、あの平屋で仮住まいをしていました。
私は大学に籍を置きながら、家業を手伝っていましたが、どうしてもこれが天職とは思えず、父と兄に家を出て違う仕事をしたいと願い出ました。
兄は、身内なら考えることなく奉公するのが当たり前だろうと、一顧だにしませんでしたが、父は違いました。
ふっと庭を見て、あと何日か返事を待てるかと言ってきたのです。
それから三日後の夜。父は私たち三人のみに声をかけ、縁側に座るように命じ、自身は庭に降り立っていました。母や嫂と子どもたちは、庭を見ることのできない部屋に押しこめられ、庭に面した部屋の灯りはすべて消され、月明かりと父の脇に置かれた行灯のみが光源でした。
当時の私は、あの庭に対しなぜか苦手意識が働き、昼間でも短時間しか降りられませんでした。
あの乏しい灯りのなかで見た庭に、真っ先に私が感じたのは畏怖です。それほどまでにあの庭は普段と様相が違っていました。
植えられているすべての木が歓喜に震えていたのです。




