― 立冬に迷う ― (4)b
ホテルを出て、ひんやりした夜の町を男二人でそぞろ歩き、大通りから外れた場所にあるバーに辿り着いた。
モダンな建物の一階にある左手側の扉には、“Bar迷い家”と小さいプレートが掲げられている。
扉を開けるとチリンと小さなベルが出迎えてくれた。やや広い店内は、照明が絞られており、左手のカウンターに七席、テーブル席が三セットとゆったりとしたレイアウトだ。
右手奥には、テーブルと椅子がいくつも積み上げられている。(昼間は隣のカフェが仕切りを外して使用しているんだとか)
そして正面の壁に飾られた特大の額縁の写真に、俺の目は釘づけにされた。この時期ならではの朱金色に輝いている紅葉の写真だ。
師匠はカウンター席に座ると、初老のマスターに、
「久しぶり、マスター。残念だけど、今日は待ち合わせなんだ」
「いらっしゃいませ、一味屋さん。ご無沙汰しております。ご活躍なさっているようで」
「いやいや、不景気なのはこの業界も一緒だよ」
おかげでなかなか仕事にありつけないと愚痴をこぼし、出されたジンジャーエールに口をつける。
まだ注文もしていないのにと思っていたら、俺の前にも同じものをすっと出してきた。
「お弟子さんですか?」
「今年の四月からだよ。めずらしくもってるよなー」
マスターは軽く頷き、俺が座ってからも写真を気にしていたのがわかったのだろう。近くでご覧になってかまいませんよと言ってくれた。が、
「いえ、撮影場所はどこだろうと気になっただけで、師匠の作品ですから……」
近寄ってじっくり見ていれば、毒になりそうだ。
おやっと首を傾げ、マスターは師匠をちらっと見ると、
「今朝行かれたのではないのですか? 私の実家で管理している別邸の庭園ですよ」
「マスターはあそこの造園会社の会長と管理人の奥さんの弟だよ」
おまけにいっとくと、このバーは俺がお持ち帰りされた日の夕方、猫から紹介されたんだよ。つまりマスターは、俺よりも猫とは長い付き合いだなと暴露してきた。
驚いてマスターを見れば、穏やかに笑って頷いた。
「ええ、私や姉夫婦は、昔から大変お世話になっていますね」
あれ、師匠に会った時点で未成年だろ? マスターは師匠よりは年いってるよな……。
俺の疑問を感じ取ったのか、マスターはまた師匠を見て、
「一味屋さんにはあの日にお話ししておりますが、ご興味があるならばお聞きになりますか? あまり面白味はありませんが……」




