― 立冬に迷う ― (4)a
「で、ミイラになることなく戻ってきたら、午前三時で京都市内のある場所に不法侵入していたわけだ。さすがに野宿はマズイってんで、猫が泊まっていた部屋の隅っこでぐっすりだ。結局、絶景写真が撮れなくて、超絶悔しかったなぁ……」
午後に予定していた仕事を終えて、ホテルに戻って荷物を置き、そのままホテル内のレストランで夕食を食べ終える頃に、ようやく師匠が迷子になってから無事に生還できるまでを聞き終えた。
信じる信じないは好きにしろといわんばかりに、呑気に食後のお茶を飲んでいる師匠に目を向けると、つい、
「師匠、未成年とはいえお持ち帰りされて、なんもなしって……」
ゲホッ、ゴボッとむせた後、苦虫をかみつぶしたかのような顔で、
「お前なー、冗談でもそんな恐ろしいことを言うなよ! 絞め殺されるだろうがっ!」
撮りたくなるような女でも、金を積まれてもアレだけは……あの女だけは死んでもゴメンだと呟いていたが、ハッと身を乗り出すと、
「お前もしかして一目惚れか! なら遠慮することはない。俺に気兼ねすることなく口説いて……」
「別に惚れてません! 俺もまだ死ぬ気はないんでお断りです!!」
藪蛇だ……。血の気が下がりながらも、心底からきっぱりと否定しておく。
「……あの女相手にその手の話するなよ……お前一応わかってんだろ?」
「……了解っす」
いささか、悪ふざけが過ぎたと二人して深く反省する。
え? 師匠の話を信じるのかって? 話したのが師匠じゃなきゃ夢落ちだろうと切り捨てたな。まあ、師匠も気づいてるみたいだけど、俺もその手のことには耐性があるから、すんなり信じたな。実際、件の女性に会った後だからというのもあるしな……。
そろそろ行くかと席を立ち、レジに向かう師匠にふと尋ねた。
「師匠、実際あの女の人に釣り合う男っているんすかね?」
しばらく黙り込んでいたが、「そのうちわかるよ、お前ならな」と返してきた。




