― 立冬に迷う ― (3)e
「……シキ、こいついつから起きていた?」
「……回収した時点ですでに動いてましたね。うかつでした」
「それのせいか?」
「おそらくそうでしょうね。もともとなじみやすいんでしょう……どうします?」
「おまえに任せる。……だが」
俺をそっちのけで意味不明な(いや、俺が原因なんだろうな)会話をしていたが、男が俺の顔を覗き込んできた。
「最初に言ったな。興がわいたと。雷公は無理だとしても、櫻妃もこいつを気に入るんじゃねえか?」
「……ではそのように……」
深いため息をつくと、気持ちを切り替えるようにかぶりを振って、カメラを出してくださいと言ってきた。
俺が愛用しているカメラを出すと、ファインダー越しに見てくださいと言われ……、なにもない空間がそこにはあった。……いや、ふわふわ浮いているものと、少女の姿だけしかない。あれほど存在感のある大木も男もレンズには認識されていなかった。
思わずシャッターを切ろうとしたら、止められた。なにも写りませんと。
「知りたいと思う気持ちはわかります。しかし知れば代償が高くつくかもしれませんと忠告はしときます。なのでイチさんご自身で選択してくれませんか?」
「忘れたいか、知りたいか、をか?」
「ええ。忘れたいなら夢として処理させてもらいます。が、多分齟齬が生じるかと思いますが……」
俺の影をちらりと見て、申し訳なさそうに言う。
「知りたいなら、他言無用?」
「ええ。誰かに言ったところで、まあ普通は信じませんし、仮に言ったとしても、ここに来ることはできませんけどね。」
「教えられる範囲でいいから、教えてくれ」
「なぜ、知りたい?」
即答すると、男が会話に割り込んできた。
なぜ? 明確には出てこない。だが、知らなきゃ後悔すると思った。それに……。
俺はあえて自分の影を差し、
「忘れても、こいつのせいでまた同じことが起こるような気がするから、かな?」
少女も影を見て、その確率は高いでしょうねーと笑った。
――なら……と。この場所や少女が緋王と呼んでいる男のこと、そしてなぜ少女がここにいるのかについて……。
結局、少女に時間切れですよー、もう疲れましたよーと呆れられるまで、俺は貪欲に彼らに関する情報を得ていった。
あ? 全く抵抗なく受け入れたぜ。思い当たることもいくつかあったからな。




