― 立冬に迷う ― (3)c
紅葉する木々が聳え立ち、落ち葉が風を相手に乱舞している。
「うっとうしい」
いつの間にか左手に持っていた扇子をパッと開き、勢いよく振り払った。ごうっと突風が巻き起こり、あたり一面の落ち葉が吹き飛ばされていく。
すっきりとした視界に飛び込んできたのは、一本の紅葉の大木と、のわっと悲鳴をあげてひっくり返っている一人の男。
確かに。あらかじめ警告されていなけりゃ、どっちも撮りたい、そして撮ってはいけないという感情が浮かびあがってくる被写体だ。だが、その前に……。
「普通、鹿じゃねえ……?」
「いいじゃないですか、紅葉に瓜坊。かわいいでしょ」
まあ、否定はしないけどな……。広げた扇子から飛び出ると一尺余りの大きさになって、寝そべっていた派手な柄の着物を着た男の腹をどつくと、戻ってきて扇子の中にするりと吸い込まれ、俺と目が合うなりウィンクしてきた瓜坊は、確かに紅葉の背景絵にはマッチしているが……。
「シキ、なにしやがる!」
俺のモヤモヤした思いを遮るように、ひっくり返された男が喚いていた。
「すみませんねー。風がうっとうしかったんで」
「やったのはお前だろうが! なんでオレがどつかれなきゃなんねーんだよ!」
「あれ? あー、そうでしたっけ?」
とぼけたように原因をごまかしながら俺を促すと、身を起こしてまだ文句を言おうとしている男の隣に腰を落とし、おもむろに瓢箪の栓をカポンっと抜いた。
「はい、おとなしくお留守番できて、お利口さんですねー。ご褒美ですよー」
「……ちっ」
白々しく言う少女に舌打ちするも、男は待っていたかのように杯に注がれたものをすいすいと干していく。
「……で?」
酒以外に目が行くようになった男は、ようやく俺に目を向けてきた。
「一味屋利夫さん、二十八歳独身のカメラマンですね」
「カメラ? ああ、あれか。で、絵師の血縁か?」
「いえ、一つ前の【魂】ですね。あの男はずいぶんと個性的でしたから、落としきれなかったんでしょう。絵と写真の違いはありますが、間違いないですね」
「これもあの男の残りもんか?」
「いえ、彼にはなにひとつ憑いていませんでしたから。さわりだけ調べたところ、どうやら血筋のようですね。本人も自覚しているみたいですし」
「ふーん……で?」
「緋王のしたいように」
「……わかった」
どうやって俺のことを調べたのか。よくわからないことを聞かされ、それに対しなにに納得したのか、頷くと男は傍らに置いてあった重箱を指した。
「許可でましたので、食べていいですよー」
少女は言うとふたを外し、箸と杯を俺に渡した。
「すきっ腹に酒はよくないんで、適当につまんでくださいねー。あ、普通に人間の食べ物なんで安心していいですよー。毒も入っていませんし」




