― 立冬に迷う ― (3)b
人影はまだ大人になりきれていなそうな見た目の少女だった。人物写真はあまり好きではないが、この少女は正直撮ってみたいと思った。だが同時に否定する感情も出てきた。
そりゃそうだ。こんな場所に現れるんだ。まともな人間じゃねえだろ。いや、そもそも人間か?
立ち止まった俺から一メートルほど離れて少女も足を止めると、小首を傾げて、
「えー、起きてる大人ですか……。面倒くさい……」
思わず俺は眉をひそめて、「嬢ちゃん……?」
少女は顔をしかめ、なにも持っていない手を振って(もう片方にはなぜか大ぶりな瓢箪を持っている)、俺を制してきた。
「すみません、おじさん、ちょっと黙ってくれます?」
上から下からジロジロと印象に残る黒と青のオッドアイで見て、俺の周りをぐるりと一周、反対周りにもう一周。正面に戻るや、足元を凝視していた。いや、正確には少女の側にある橙色の光によって生じた俺の影を、だ。
「……か、珍しい……」
少女の呟きは、思わず俺の顔をひきつらせた。
「ふーん。自覚してるんだ、カメラマンのイチさん」
「待て! なんで俺の……」
声をあげたが、また制された。少女は荷物を指すと、
「カメラ入ってますよね? これから撮りたくなるような場所に行きますが、絶対に出さないでください」
踵を返した少女に、待ったをかける。
「もし嬢ちゃんについていかなきゃ、どうなる?」
「ミイラになって運がよければ一年以内にどっかで発見されるんじゃないんですか。ついでに言いますと、こっそり後をつけようとしても無駄ですねー。わたしがいなくなれば、この通路は閉じるんで」
またもやイヤそうに顔をしかめながらも、振り返って物騒なことを言われた。
どうやらついていくしか抜け出すことはできなそうだ。俺は素直に荷物を背負い、少女の後を追いかけた。
「なあ、嬢ちゃん。とりあえず二つだけ聞きたいんだけど……」
「なんです?」
「名前教えて? あ、別にナンパ目的じゃなくて、嬢ちゃんって呼ばれるの嫌なんだろうなーって」
少女はちょっと笑うと、
「とりあえず、猫とでも。二つ目は?」
「猫? へえ、ぴったりだな。それ、なに入ってんの?」
少女の格好にはいささか不似合いな瓢箪を指す。
「酒です。結構便利なんで昔から重宝しています。いける口なら、後であげますよ」
それっきり口を閉ざし、歩き続けていると、いつしか景色が激変していた。




