― 立冬に迷う ― (3)a
十一月。東北の山間部では、雪が舞い始める頃。
師匠の元から独り立ちしたものの、まだ仕事も少なく暇を持て余していた俺に、兄弟子から変わった沼があるらしいと教えられ、行ってみることにした。
ところが、麓の村人に聞いてみても、具体的な場所が特定できなかった。が、山登りも慣れてるし、なんとかなるかあと気軽に山に入り……
「駄目だなこりゃ……」
方位磁石はぐるぐる回転しっぱなし。日もとっくに暮れ、あたりはかなり暗い。こういうこともあろうかと野宿の準備はしてあるので、体力を温存するために早々に寝袋に入ることにした。
寝落ちする前、ふと確信した。やっぱ、イヤガラセか……。
どうも妙な感じがして目が覚めた。たいして寝ていないので、まだ夜のはず……が、あたりはわずかに暗い真っ白な濃霧だった。いや……。
俺は手早く寝袋をたたみ、近くの木に触れようとし……空振った。
そう――あたりには木の一本もなく、土の感触さえもなかった。
「あーこりゃ、どうすっか……」
さすがにこれは、マズいか。さてどうしたもんかと考えていると、どこからか風が吹き込んできた。
「正直者は風に平行に動く、だがひねくれ者は……」風に垂直になるように向きを変え、歩こうとし……無駄だった。どうやら幅は狭いらしい。
そうすると、どちらに進むべきか。さすがの俺でもこの選択は迷いがでる。いっそコイントスで決めるかと思ったとき、視界の角に小さな光が目に入った。
「……うん?」
風上の方だ。ならばと光を目指すと、なぜか風が逆向きになったがそのまま歩を進める。
徐々に光が大きく見えてくると、その傍らに黒い人影も見え始めた。幾分速足になりかけたがが、すぐに立ち止まった。




