― 立冬に迷う ― (2)a
「今月もありがとうございました」
「いえいえ。それにしても早いですねえ。もう来月でお仕舞いですか。全部揃うのがほんま楽しみですわあ」
「私もお見せするのが待ち遠しいですけどね。あと一回かと思うとなんか悲しいですよ」
「いやいやお仕事抜きで、なんぼでもいらしてくれれば……」
「ま、そうですね」
それではまた、と挨拶をして脇門から出る。
先に出て待っていた弟子が、次の約束までどうするかと聞いてきたので、腕時計を見る。
「うーん。まだ九時前だしなー。近くを拝観しながら移動……うん?」
もう一度時計の日付を見直すと、スマホであることを確認する。
「今年はついているかもな……」
「師匠?」
「この近くにな、京都の中でも観光客がほとんど訪れない、超穴場の庭園がある。まずはそこだな」
機材を持って弟子とともに、目当ての場所に向かって歩き出した。
俺、一味屋は三十前に独立してから十年ほど経つ、風景専門のカメラマンだ。そこそこに名も売れ、依頼も豪華な飯がたまに食える程度にはくる。観光協会やガイドブック、カレンダーや今回のような寺で販売するポストカードなど様々だ。
十一月――朝晩の冷え込みで、千年の都は徐々に極彩色の衣替えをしつつある。
先程までいた寺院から、のんびり十五分ほど歩くと、土塀で囲まれた一画に辿り着いた。辛うじて、塀の上から染まり始めた木が見えるだけで、内部は一切見ることはできない。
門の脇に取りつけられたチャイムを押すと、しばらくしてからカチッと小さい音がして開錠された。中に入れば、玉砂利と二方向に別れている飛び石が敷かれているだけの広場に踏み入れ、左側の飛び石に足を乗せる。
「ここ、寺っすか?」
「あー、寺だったのは室町の頃までだったらしいな。作庭ばかりするようになって、鞍替えしたらしい。今はあそこの造園会社の別邸、のようなもんだ」
北側にある五階建てのビルを指して説明した。
「無断で入っていいんすか?」
「顔パス。駄目な場合は文字通りの門前払いだ」
右手に平屋、正面に紅葉しはじめている満天星の生け垣が見えた。後ろにいる弟子が息を呑んだのがわかる。俺も最初に連れてこられたときに、同じ反応をしたからな。
木戸に手をかけると弟子の方に振り返り、「不侵の庭へようこそ」と告げた。




