↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界守  作者: 琥珀猫
PR
31/89

― 立秋に誓う ― (4)e

 満ち足りていない月が西へ沈もうとする頃。ゆっくりと木舟を沖へ進めていく。

 ある程度深い場所についたところで、血を一滴、暗い海面へ落とした。揺らぐ水面上に現れたのは、木舟よりやや大きい一頭の鮫であった。

 術で従わせることなく、二つの頼みごとをする。さほど渋られることなく引き受けてくれたので、寝転んで満天の星空を眺めながら、鮫によって運ばれていく。

 ぽつぽつと鮫と話していると目的地の島についた。無人島らしく人口の灯り一つない。

 岩場に舟を寄せ降りると沖へと押し出した。すべて木で作られたボロ舟だ。鮫は器用に海底へと沈めてくれるであろう。

 下りる前に垣間見えた影を目指して、山を登っていき中腹よりやや上の開けた場所に辿り着いた。目の前には、濃紫、藤、白黄色の花房を垂れさせた藤の大木があった。

 そして大木は枝を岸壁に見えるなにか……に這わせていた。

 「よくもまあ……短期間でここまで集まったな……」

 間違いない。これは【境界】だ。それも聖域といえるほどの……。

 「待ちました」

 先程見えた影――藤色と白黄色が混じった髪に、萌黄色の双眸の細身のもの――が話しかけてきた。

 視線を【境界】から、薄汚れた単衣をまとっている藤の木精へ移す。

 「風精に言伝を頼んだのは、あなたか?」

 「はい」

 「見つけたものを見せてくれ」

 「はい」

 下の方の枝に引っ掛けてあった鎖を渡してきた。

 「確かに雷公に与えたものだ。いつ、どこで見つけた」

 「座りませんか」

 いつもそうしているでしょうといってくる。道なき道を登ってきたから、立っているのもしんどいので、言われるままに座ったが、

 「なぜ知っている?」

 「見せてくれました」

 同じように座った木精がペンダントを指し、話し始める。

 (雷公のバカめ。いや回収できなかったのが、そもそもか……)

 「これがなにか知っているか?」

 木精が枝を添わせている【境界】を指して問いかけた。

 「よくは知らない。でもわかる」

 「では、あなたはどうしたい?」

 「伝えた。それの持ち主の役目を継ぐ。頼まれた」

 これが、ここに来た目的だ。必要性のない【境界守】を赤の木精(他人)が、自分からなりたいなど、誰が考える!

 「見たのならわかるだろう。なぜそれを望む!」

 「独りはイヤダ」

 「なに?」

 「ここに木精は他にいない。みんなただの木であり草だ。風精も水精は用があるときしか話してこない。眠ることもできなくなった。つらい。でもそこにいれば寂しくはないのだろう。だから継ぐ」

 開いた口が塞がらない。なんだそれは。孤独がいやだから、孤独を強いられている【境界守】になりたいなど……! だが……。

 「本当にいいのか?」

 「いい」

 即答してきた。ならば……。

 「まずは確認してからだ」

 立ち上がり、できたばかりの、在るだけの【境界】へ手を伸ばす。目を閉じ、意識を解放させ、すべてを調べていく。ああ、雷公。だからか……。

 目を開けると、側に立っている藤の精へ、緋い石のついた鎖を渡す。

 「なら、やろうか」

 「どこへ行く?」

 「対価を払ってくる」

 呼び止める声を無視し、山を下り始めると、なぜかついてきた。

 「離れられるのか?」

 「ここだけなら」

 なら好きにしろと、そのまま上陸した岩場へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。