― 立秋に誓う ― (4)c
――さて、ある一人の男がいた。いや少年である。北の地に生まれ、左眼が青いせいで山に捨てられ施設に放り込まれた、がりがりに痩せ細った十歳の子供であった。
ふらふらになりながらも一年ぶりに来たのを見るや、どつかれて転んだところで頭を膝に押しつけられた。
「たわけ、このたわけっ、シキのたわけ~!」
ポカポカと叩きながら櫻妃が耳元でわめいた。力が込められていないから、さほど痛くはないが、叩かれ続けるとさすがに堪える。
「わかった、わかったから……」
叩くのをやめた代わりに、今度は両頬をぐいーっと引っ張ってきた。肉などろくについていないから、こちらの方が痛い。
「ほうひ……ひゃめひゃいや……」
離すやいなや、ぽかんと頭をひとつ叩いてきた。
「いつからそんなに暴力的になったんです?」
「うるさいっ。知らんわ、このたわけ!」
やれやれ、しばらく黙っているか、ちょっと疲れ気味だし……。
「のう、シキ。無理をせず彼岸にしばらくいたほうがよいのではないか?」
泣きそうな顔を素直に晒して覗き込んでくる。だが、発育不良な体を酷使しているのは承知の上だ。
「二人にも同じことを言われたけど、できるときにやっておかないと……」
「そちは強情だからのう……」
はあっと深くため息をつかれたが、そういえばと話を変えてきた。
「妙な言伝があるらしい」
「誰に?」
「わからん」
「なにそれ?」
「いや、持ってきたものは、そんなに多くはない……」
主に西から南に坐している【境界守】たちからだという。
「でだな。てんでばらばらの短い言伝なんだが、ちと気になるものがあるのだ」
いくつもの単語を言ってくる。字面が違えば異なる意味合いだ。だが……。
身を起こすと、常にポケットに忍ばせてあるいくつもの小石を取りだし放る。ばらばらと散らばった黒と白の小石を見つめ、拾い、また放る。それを何度も繰り返す。
最後に放ったものをじっと見つめ、チッと舌打ちをして小石を仕舞い、ぽすっと櫻妃にもたれて目を閉じる。
「いやだなー、なんで同じことをしないといけないんだよ。……いやだなー、なんでこうなるんだよ。誰の采配だよ……。意味あるのかよ……」
「……シキ?」
櫻妃が優しく髪を撫でてくるが、今はなにも見たくない。棒切れのような細腕で目を覆い隠し、ぽつぽつと愚痴を紡ぎだす。
しばらくして目を開けると、片腕をあげ櫻妃の顔に添えた。
「誰の意思であれ、それが必要であればやってやる。動けというなら賭してでも動いてやる。文句などいわせるものか。完全に完璧にやってやる!」
だから櫻妃、今世で会うのはこれで最後だ……。
触れてくる腕を下ろさせ、櫻妃は気にするなとかぶりを振った。
「さようか。なれば今は休め」




