― 立秋に誓う ― (4)a
僕は藤、つまり木精だな。木にもよるが、だいたい五十年以内に人型に変化できれば木精であり、変化できなければただの木として一生を過ごすことになる。
だが人型になったとて、しょせんは木だからどこにも行けない。だからたいていの木精は眠っているんだ。
僕は五年ぐらいで人型になったんだけど、周りに木精となった木は一本もなかったから滅多に起きなかった。眠っていてもうっすらとだが情報は入ってくるしな。
でもあのときは……海の向こう側にキノコみたいな雲が突然現れた日――。
――誰かに叩かれるように無理矢理起こされた。寝ぼけた状態で起こされた理由を考えていると、どこからか「頼む!」と声がした。たぶん同じ木精だろうが、どこの誰なのか、なにを頼むのか、まったくわからなかった。
結局、たいして気にすることもなくまた眠りについた。だが、その日を境に眠りが浅くなったんだ。
異変はもう一つあった。あの日以降、僕の周りによくわからないものがどんどんと集まり出したんだ。それは起きるたびに徐々にくっつき始め、いつしか僕の隣で大きな塊になって居ついてしまった。
……なにもしなかったの?……
しないではなくできないだな! 動けない木精だし。たとえ動けてもどうすればいいのか知らないし。なによりそれに、いやな感じがしなかったからな!
――頻繁に寝たり起きたりを繰り返してどのぐらいたったか。あるとき風精が助けを求めてきた。渡り鳥の一羽に鎖が絡みついて難儀していると。
運ばれてきたのは、ぐっちゃぐちゃに細い鎖に絡まった鳥だ。ほどこうと羽をばたつかせているうちに収拾がつかなくなったらしい。
幸い簡単な手作業ができるほどには成長しているから、少しずつほぐしていった。
全部ほどけたとき、鎖の真ん中部分に燃えさかるような夕焼けを切り出した緋い石に触れてしまった。
触れた途端、たくさんの記憶が流れ込んできた。この鎖、いや石の持ち主の記憶が……。
それは、あのとき僕を叩き起こしたものの記憶だった。そして、託された想いも込められていたんだ。
僕は風精たちに尋ねたが、彼らもよくわからないらしい。
それならばと、彼らに伝言を頼んだ。長いのはダメだ。一言ずつ色んな伝言を、その日から頼むことにした。いつ、誰に届くかもわからない。だが受け取ったものは、必ず来てくれることを願って。
欠けてもなお綺麗に輝いている月夜。風精がやって来て僕に囁いた。
――小さい船が、海のものに引っぱられ、やってくるよ――




