― 立秋に誓う ― (3)b
夏休み――。八月に入って学校のプールは休みで、友だちも田舎に帰っている子がほとんどだ。弟は風邪をひいて寝てしまい、宿題は順調に消化しているからやることがない。どうしようかなあと思っていたら、平日なのに姉さまが家にきて遊びに連れて行ってくれた。
一人占めできて嬉しいけど、お仕事は……? 「夏休みだよ」
気にするなといわれたけど……カバンの中でさっきからヴーヴーうなっているけど……ま、いっか。困るのは姉さまじゃないし。
お母さんは弟の看病で疲れているから、夜ごはんは一緒に作ろうかって買い物の帰り道。
「姉さま、甘いにおいがする!」
「甘い? お菓子?」
「違う、お花だっ!!」
ぼくはきょろきょろとあたりを探すがここじゃない。小走りに角を曲がると、
「……っわあ!」
「おや、これはめずらしく見事だねえ」
のんびり後をついてきた姉さまも、驚いたようだ。あれ?
「藤の花って五月だよね?」
曲がってすぐの洋館に藤の花がたくさん咲いていた。
「そうだよ。普通は四月から五月。だからこれは帰り花だね。だけど……」
「よくご存じですねえ、お若いのに帰り花なんて言葉。毎年この時期に咲くんですけど、今年は特にすごくて」
たまたま手入れをしていたおばさんが、ぼくを見て説明してくれた。
「かえりばなって何?」
姉さまを見上げて聞いてみる。
「んー。わかりやすくいえば、普通に咲く時期以外に咲く花のことだよ。二度咲きとか狂い花ともいうねえ。藤の他には木蓮とか山吹とかもあるよ。それにしても見事ですねぇ」
こんなに咲くのは、珍しいことらしい。
「ふーん。変なの……うわっ」
悪口をいわれたと思ったのか、突然バサッと花のかたまりが(一房っていうらしい)が頭に落ちてきた。あれ?
「あらあら、ごめんなさい僕、大丈夫?」
「問題ないですよ。軽いですから。でもちょうどよく頭に落ちてきたのもなにかの縁ですから、この一房頂いてもいいですか?」
笑いながらぼくの頭から取り上げ、おばさんに了承をもらい、そのまま歩き始めてしまったから、ぼくもありがとうございますっておばさんと別れて……あれ?
「色が違う……」
ぼそっと呟くと、姉さまはちらっとぼくを見て、少し困ったように笑うと、人さし指を口に当てた。しーって。
やっぱり、姉さまがなんかしたんだ。頭の上に落ちてきたときと、取り上げられたときの花の色が違っていた。
頭の上にあったときはもっと色が濃かった。それに今もだ。でも姉さまが取り上げたときは薄くなっていた。まるであのおばさんに隠すかのように……。じーっと花を見ていたら、パッと消えてしまったから、今度は姉さまをじーっと見上げる。
首を傾けて、ぼくをまたちらっと見て、自分の手元(たぶん姉さまには見えている花)を見て、ぼくを見て、はぁーってため息をついた。
「サキト、夜は暇かい?」
「? 普通子供に夜の予定はないよ」
あっ、今はあるか、花火とかお祭りとか。でも今日はなにもない。
「じゃあ、一緒にくるかい?」
「ぼくだけ?」
どこに? じゃなくて、ぼく一人だけ? が先に出てくる。
「そうだねぇ、お呼ばれしたのはサキトだけだし」
「行くっ!!」
もちろん行くに決まっている! 大好きな姉さまとぼくだけが行くところ。これは行かないでどうする!!
嬉しすぎてはしゃいでいたぼくは、姉さまのつぶやきが聞こえなかった。
「子供連れって甘いものメインですかねぇ。夜に……はぁ、胸やけしそうですねぇ」




