↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界守  作者: 琥珀猫
PR
20/89

― 立秋に誓う ― (2)

 あまりの炎天下に休息も兼ねて涼を求めるべく神社に入り、木陰に設置されたベンチで伸びていたら、暇を持て余していたのか、この神社に祀られている一柱が隣に座ってきた。

 「げに恐ろしきは、人間が造り出す兵器だな――」

 なんです、いきなり?

 あぁ、この時期に放映される番組を社務所で覗き見したんですか。暇で結構ですねぇ。

 はい? 前々から聞きたいことがあって、ちょうど見ていて思い出した? 都合よくわたしがいたから答えろと? はいはい、なんです?

 「我々がどうすることもできなかった聖域と定めたあそこを、ただの人間はいとも簡単に消すことができた。お主は己の力であれを消すことができるか?」

 今さらなことを聞きますねー、できますよ一応。ただ、あそこを消せば、此岸でこのぐらいの土地も消失しますねと具体的な被害規模を告げると、まぬけ面を晒してきた。

 当たり前じゃないですか、あれはそういうものなんですから。当然、こちらも相当のリスクを負いますよ。どうせ消すなら、対極にあるものの方が全然楽ですねぇ。

 「ちょっと待て」

 なんですか。

 「お主、あれがなにか知っているのか!?」

 そんなに驚くもの……まさか知らないんですか? もしかして、どなたもわからないまま施したんですか?

 「いや……あれは此岸と彼岸の境にあって、こちらには影響ないし……いやいや、ちょっと待て、落ち着け! ……で、あれはなんだ?」

 別に殴ろうかなぁなんてこれっぽっちも思っていませんから、立ちあがって距離置かないでくれませんかねぇ。まぁ、ろくに先のことなど考えもせずに処置だけして、だ~れも見向きもしなかったようですから、興味も……。

 「興味を持ったから、今聞いているであろうに」

 そういうことにしておきますよ。

 で、【境界】がなんであるか、ですか。簡単にいえば【魂】の残渣ですね。ついでに対極するものは、おりですよ。

 「どういうことだ?」

 万物すべては面倒なので、人間のみについて話しますよ――

 人間は魂魄で大体形成され、此岸に生まれます。【魂】は心即ち精神であり、【魄】は体即ち【魂】を包み込む殻です。死ねば魂魄は別れます。

 では別れた【魂】と【魄】はどうなりますか。

 「【魂】は彼岸へ渡り、新しき生命となって此岸に戻るな。【魄】は、あー朽ち果てるな。今なら骨壺の中か」

 風情がありませんが、そうですね。

 【魂】は彼岸へ渡り不要なもの(つまり此岸にいた記憶とかです)を削ぎ落とされて、まっさらな状態になって此岸に戻り、造られた【魄】と結びつきます。わかっていると思いますが、削ぎ落とされたものが裁定後に地獄や天国に行き、業や徳を持った【魂】として此岸に戻りますよ。

 「そのくらい知っている」

 おや、そうですか。では――

 【魄】は自然に還る……いえ、混ざるといったほうがいいですね。ですが完全には混ざりません。未練や執着といった陰の念がどうしても残ります。この陰の念は【魂】からこぼれ落ちたものとも考えられています。

 「で、それが澱に変ずるのだろう」

 ええ――。で、その残りが【無】です。あるいは……

 「ちょっと待て! 【無】とはなにもない、つまり残っているものがないということであろう? 澱はわかる。だがなぜ、なにもないものがあれに変じる?」

 まぁ、そうなんですがねぇ。でも実際、なにかが残っているんですよ。自然に混ざりきれない、形容し難いなにかが……。それにあえて名をつけるなら【無】なんです。あるいはうろですかねぇ。心も殻もない、なにもないけどなにかがある。ただそれだけなんですよ。

 で、個々の【無】が集まってできたのが【境界】です。

 「澱と対極という割りには、【境界】のほうが多くない……なんだその目は」

 失礼、とうとう呆けたのか……と。少し考えればわかるでしょうに。わたしの仕事の一つはなんですか?

 「あーそうか、排除していれば確かに少ないわな……。あー次だ次。なんで澱のほうが簡単に消せる……」

 おや、ため息一つついただけですよ。びくつかないでくださいよ、苛めているみたいじゃないですか。質問は何でしたっけ?

 澱は未練や執着です。だったらそれをほどけばいいんですよ。説得や懐柔、強制退去で大体は消滅できます。ですが【無】はなにもありません。ことわりを説くことも、力でねじ伏せることも。できるとすれば、感情もなにも抱かずそれこそ機械のように……。

 だからこそ、余計にこちらの力が消費されるんですよ。はぁ、なんか疲れましたねぇ、もう帰ります……。

 「待て待て。あと一つ、いや二つだ」

 まだあるんですか。答えますから引っ張らないでくださいよ。

 「いつから、それに気づいていた?」

 仮説自体は、彼らとつき合いし出したあたりですね。面倒くさかったので、そんなもんかですませましたよ。確証したのは、前のわたしですよ。で、二つめはなんです?

 「なんであれは彼岸と此岸、現と夢の境に在って、【魂】や【想】が行き来する? 澱のようにただ在るだけなら、あのとき介入しなかっただろうに」

 自分たちは悪くないとか言わないでくださいよ? また腹が立ってきますから……。

 まぁ、これも仮説ですがね。魂魄の残渣だから……だと思いますよ。どちらにも行けるようで、どちらにも行けない。

 だから結局どちらとも繋がろうとする。ただそれだけなんですよ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。