↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界守  作者: 琥珀猫
PR
18/89

- 立夏に偲ぶ - (6)

 「真紀ー。そろそろ行くけど、どうするー?」

 「あっ、行く行くー。ちょっと待ってー」

 階下から母が聞いてきたので、返事をするとバッグを掴む。

 「あっと、本、本……と」

 肝心の本を忘れ、部屋に戻ると用意しておいた本をバッグに放り込み、バタバタと階段を駆け下りる。

 「あんた、本当に行くの?」

 「うん。一応ひいおばあちゃんに事後報告したいからねー」

 本を見せると、ああと納得した母とともに家を出た。

 ひいおじいちゃんが先日亡くなり、納骨するために寺に行く。本来ならおじいちゃんたちが行くはずだったが、おばあちゃんともども入院してしまったため、孫の母と叔母が行くことになった。

 わたしはついでだ。いやもちろんひいおじいちゃんはちゃんと供養するよ。でも本来の目的は、母にいったように会ったことのないひいおばあちゃんへの事後報告だ。

 彼女が書いたノートをもとに、本を出版したことの。

 そのノートと写真を発見したのは高校のとき。

 母に聞いたらひいおばあちゃんが独身の頃(なんと百年近く前!)書いたものだという。

 大正時代のものなので、結構読みにくかったが、感想はめっちゃ面白い! だった。

 世に出したいと母にいったら、長いこと黙り込んだ末、

 「まあ、ひいお祖父ちゃんから好きにしろといわれたのは私だから、問題ないけど……それ、そんなに面白かった?」

 「うん。創作にしては、変わっていて、面白かったよ。ひいおばあちゃんって文才あったんだね」

 といったら、驚いたことに実際に彼女が体験したことらしい。このノートを預かった時のことを母は思い出しながら、話してくれた。

 その上で母は、「今になって、あんたの目に留まったのも、なにかの縁なのかもしれないねえ」といい、この二つはわたしのものになった。

 着手しはじめたのは、大学に入ってからだ。

 時代背景も含めて気になったことを調べてみようとしたが、あっさり挫折した。

 まず、舞台となる場所は、すぐに放棄した。ひいおばあちゃんが住んでいた場所はお母さんが知っていたが、問題の山は特定できなかった。

 では、最新の技術を駆使して、写真をカラーにしてなんの枝か調べようとしたが、こちらもわからなかった。(わかったのは、この青年が結構イケメンだということ)

 結局、このノートを脚色し、若かりし頃の母が見つけた写真とノートから、ひいおばあちゃんの淡くて苦い初恋の顛末を……という話を書いた。

 そしてとある出版社に応募して、見事に受賞し出版されたのだ。

 現在は二作目を考案中だ。この不思議なイケメン青年を主人公として。もともと話を創るのは好きだったので、まあなんとかなるだろう……。

 寺に着き、待っていた叔母と合流した母と別れて先に墓地に向かった。

 平日の午前中だから誰もいないかと思いきや、入り口でひとりの女性とすれ違った。

 わたしより背が高くすらっとしていて、喪服代わりなのか全身黒で格好良く決めていて、おまけにサングラス。

 口元がかすかに上がった状態で、すれ違うときに軽く会釈してきたので、脇により彼女が出て行くのを待つ。サングラスの隙間から、青い目が見えた。

 (おー、なんかイケメン青年の女性版って感じ。あ、この設定いけるかなー。何度も転生し直してとか……)

 ふむふむと、考えながらひいおばあちゃんのお墓の前まで来て、さて本を……

 「えっ、これわたしの本?」

 まさに置こうとしていた本が、赤黒い花が咲き誇っている枝とともに供えてあった。

 持ってきた本を再び仕舞い、枝に手を伸ばす……触れる寸前、風もないのに花びらは散ってなくなり、残っていた枝も砂のようにさらさらと崩れて消えていき、一通の封筒が目の前に現れた。

 「……!?」

 余りの出来事に驚いて固まっていたが、母たちがやって来るのが見えたので、置かれていた本と封筒をバッグに放り込む。そのまま、上の空でひいおじいちゃんの骨が納められるのを見守った。

 (まさか……ね)


 帰宅し自分の部屋に戻ると、持って帰ってきた本と封筒を取り出して見つめる。本はカバーがかかっておらず、読んだ形跡がかすかにある。封筒には小さく 『静子さん並びに曾孫さんへ』と書かれていた。

 『……あなたの視点から見たあの日の出来事を、櫻妃とともに楽しく拝読させて頂きました。正直、これほど鮮明に覚えておられ、なおかつ記録されていたことに驚いております。

 ……あなたを大切にしてくださる方と結婚され、天寿を全うされたことを喜ばしく思います。あやまりたい、会いたいとあなたは遺されており、また櫻妃の願いにより、墓前にてそのお気持ちだけを頂きました。

 ……啓介は、曾祖母様と出会った頃、すでに除籍されており、現存している血縁は一人もおりません。自身も終戦後に死亡しており、墓も存在しません。

 ……あなた様の今後のご活躍をお祈りいたします。

 末尾になりますが、故人とはいえ、記録媒体が残っておりますと支障が出かねますため、誠に勝手ながら削除致しましたことを、ご報告させて頂きます。

                                       偲んだものより 』


 慌てて写真を見ると、パソコンに取り込んだ画像も含めて、どうやって消し去ったのか、すべてひいおばあちゃんしか写っていなかった――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。